第2弾 「美貴ちゃんの着ぐるみ激闘編」

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完結
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24
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132恋愛小説家
スーパーでの着ぐるみデビュー後、美貴はあやに誘われ着ぐるみショーなどを行っている事務所で
アルバイトをすることになりました。まだまだショーデビューは無理ですが週に1,2回練習に参加して
週末は先輩たちのショーのサポートスタッフとしておもに雑用係りとして現場に参加しています。
夏休みに入り毎週末、いろいろな場所でショーが行われるようになりました。

今週は某住宅展示場での“ヒーローマンと怪獣のミニ・ショー&お遊びタイム”のサポート・スタッフとして
参加します。メンバーはヒーローマン役の恋山さんと怪獣役の愛川さんと私の3人です。MCと音響担当は専門の人が
担当するのでうちの事務所からは3人だけです。朝、事務所に集合してワゴン車にブツを積み込み、現場に向かいます。

恋 「今日は暑くなりそうだなぁ」
愛 「30℃、超えるらしいすっよ」
美 「お二人ともガンバってくださいね(笑)」
恋 「今日の美貴ちゃんの役目はチビッコの整理と着替えの手伝いだからね。」
愛 「控えに戻ったらすぐに脱がしてね。まじでツラいんだからね、ヒーローマンとか怪獣は・・・。」
美 「そうなんですかぁ。私まだスーパーのマスコットしか経験したことないんですよぉ。」
恋 「あぁ言う着ぐるみは布とかで出来てるでしょ。ヒーローマンなんかゴムだよ。」
愛 「汗は吸わないし、風は通さないし、ほんと3分しかもたないよ(笑)」
恋 「その上、視界は悪いし、臭いしな(笑)」
愛 「美貴ちゃんもやってみる?。」
美 「えー、イヤですよ。そんなのぉー(笑)」
恋 「まぁ、オンナノコがやることはないけどね」
愛 「とにかくサポート頼むね。」
美 「はい。」
133恋愛小説家
恋山さんも愛川さんも大学生。フタリともアクションショーなどで主役を演じることが多いベテランです。
とても演技もうまく、親切に指導してくれる先輩です。そして愛川は美貴が密かに憧れている男性です。
現場の住宅展示場につき、ブツを運び込みます。控え室は展示場内のモデルルームの一室でした。
モデルルームから少し離れた場所でミニショー等を行い、着替え&休憩はこの一室でします。

恋 「テントじゃないのかぁ。」
愛 「ってことは、ちょっと休憩して脱ぐっていうわけにはいかないなぁ。」
恋 「着たら着っぱなしかぁ・・・。」
愛 「ツライなぁ。それにこの入口の階段も気になるなぁ。」
恋 「あぁ。怪獣にはキツイな。美貴ちゃん、ちゃんとフォロー頼むよ。」
美 「まかせてください。(笑)」

建物の入口には3段ほどの階段があった。普段は気にならない段差も動きづらい着ぐるみなどを着ていると
自分の足元が見えないため非常に厄介だ。
MC&音響担当との顔合わせ&打ち合わせも終わり、ショー始まりまであと1時間となった。
今日のスケジュールはミニ・ショーを10分程度、一旦休憩後お遊びタイムとして20分程度。
これを午前午後1回ずつの計2回行う。
部屋の中では恋山さんと愛川さんがミニショーの段取りを復習していた。10分程度のショーなので
それほど難しい動きはないようだ。美貴もそれを覚えるかのように見ていた。
134恋愛小説家
ショー開始15分前になると、フタリとも着替え始めた。恋山さんは以前戦隊ショーで使っていた戦党員用の
全身タイツのようなものを着て、ヒーローマンの着ぐるみを着ていた。ウエットスーツに顔の部分がついたヒーロースーツは
片足づつ入れ、腰まで引き上げ、両腕を通す。この時点で頭まで着込んでしまうとショーが始まる前に苦しくなってしまうので
ブーツ、手袋を装着して、顔の部分だけ被らず待つ。怪獣役の愛川はロングTシャツに単パンで面下をつけ、怪獣を着る。
怪獣はヒーローマン以上に重く、視界も悪く、長い尻尾がついているので動きづらそうだ。
ショー開始5分前、美貴がフタリの背中のファスナーを閉め、ショーを行うスペースに向かうため、控え室を出た。
ヒーローマンの視界は目の部分に開いている小さな穴1つ。口の部分に細く切れ目が入っていて多少息ができる。
息苦しい、暑いのは別として動きづらさはそれほどないので一人で歩いていく。
怪獣のほうは怪獣の着ぐるみの喉のあたりに無数の小さな穴があいており、そこから視界を確保する。
大きな脚や長い尻尾のせいで非常に歩きづらく、足元などほとんど見ることができないので
美貴が手を引いてサポートします。

美 「はい、段差ですよ。1,2,3。はい、OKです。ガンバってくださいね。」

美貴は怪獣に声をかける。怪獣はノッシノッシとショースペースに歩いていく。

美 (あの怪獣の中に愛川さんが入っているだよなぁ・・・。苦しいんだろうなぁ・・・)

美貴は憧れの愛川が演じている怪獣を見つめていた。
1回目のミニ・ショーも終わり、一旦モデルルームの控え室に戻った。
135恋愛小説家
美 「はい、お疲れさまでーす。すぐ、ファスナー下ろしますからね。」

まずは恋山の演じているヒーローマンの背中のファスナーを後頭部から腰のあたりまで下ろす。
恋山は開いた後頭部のスーツをガバッと開き、顔を出した。

恋 「フゥーーーーーーー。」

続いて憧れの愛川演じる怪獣のファスナーを下ろす。怪獣の背びれ部分に隠れるようについている
ファスナーを下ろして、怪獣スーツを開き、愛川が脱ぎやすいようにサポートする。

愛 「あぁー。暑い。やっぱ、怪獣はツライよ。」
美 「ハイ、タオルとジュースです。」
恋 「ありがと、美貴ちゃん。」
愛 「全部脱ぎたいけどな、すぐにまた出なきゃならないからなぁ」
恋 「そうだよ。10分休憩ですぐにお遊びタイムだからな。」
愛 「汗がスゴイよ。靴の底に溜まってるよ。」
恋 「こっちもだよ。Tシャツ搾れるよ、たぶん。」

あっと言う間に休憩が終わり、お遊びタイムの時間がきた。

恋 「美貴ちゃん、ファスナーお願い。」
愛 「こっちもね。あと、段差のサポート頼むね。」
137恋愛小説家
「はい、了解です。ガンバってくださいね。」

夏休みということもあり、たくさんのチビッコが集まっていた。予定の時間を過ぎてもお遊びタイムが終わらず
見かねた美貴が

美 「ヒーローマンと怪獣は宇宙に帰る時間になったので、チビッコのみんなバイバーイ。」

ヒーローマンと怪獣に合図をして、控え室に向かいます。ヒーローマンが階段を上がり、部屋に入り
怪獣があとに続きます。

美 「ハイ。階段ですよ。」
子 「なんだよ、怪獣にげんなよー」
美 「チビッコたち、着いてきちゃダメだよ。」
子 「弱い怪獣だな。こうしてやるぅー。」

まさに、怪獣が階段を上がろうとした瞬間、チビッコ数人が怪獣の尻尾を引っ張りました。
予定時間を超え、暑さと苦しさでかなり疲れていた怪獣はバランスをくずし、倒れこんでしまいました。

美 「あっ。ダメよ、引っ張っちゃー。」
子 「へん、ザマーみろ。(笑)」
美 「平気ですか?立てます?」
愛 「・・・・・。」

音響担当の人と美貴とで、抱えるようにして部屋に運びました。
先に部屋に戻っていたヒーローマンのファスナーを急いで開け、怪獣のファスナーを開けました。
138恋愛小説家
恋 「おい、どうした?」
美 「階段上がろうとしたとき、子供が怪獣の尻尾を引っ張ったんです。それで愛川さんバランスくずして転んじゃったんです。」
愛 「イテテテテッ、脚やっちゃったみたいだ。」
美 「大丈夫ですか?」
恋 「平気か?。」
愛 「転んだとき、へんな体勢で転んじゃってさぁ。脚打ったみたいだ。イテッ。」

恋山は急いでヒーローマンスーツを脱ぎ、怪獣の中の愛川に手を貸した。
美貴もタオルとジュースをフタリに渡す。愛川は片足を床につけないようにして椅子に座った。

愛 「イテーよ。折れてるかもな。動かすとスゲェ痛いし・・・。」
恋 「医者行くか?」
愛 「イヤ、午後の部があるから無理だろう。」
恋 「何言ってるんだよ。そんな脚で出きるわけないだろ。」
愛 「そんなこと言ってもどうするんだよ、午後の部。」
恋 「変わり探すしかないなぁ。」
139恋愛小説家
愛 「とりあえず湿布張って様子見るしかないな。」
恋 「美貴ちゃん悪いけど湿布買ってきてくれるかな。」
美 「はい。すいません、愛川さん。私がもっとちゃんとサポートしていれば・・・(涙)」
愛 「美貴ちゃんのせいじゃないよ。気にしなくていいよ。」
恋 「そうだよ。心配しなくてもいいよ。」

美貴は急いで近所の薬局で湿布を買ってきました。午後の部まで多少は時間があるのでその間に
どうにかしなくてはなりません。恋山は事務所に電話をして代役を呼んでもらえないか聞きましたが
あいにく他のメンバーは全員現場に出ていていませんでした。

愛 「この脚でどうにかガンバるしかないかぁ・・・。」
恋 「それは無理だろう・・・。」
愛 「そんなこと言ったって代わりがいないんじゃ仕方ないだろう。
恋 「代わりかぁ・・・。」
愛 「あっ!」
恋 「どうした?」
愛 「いるじゃん、いるじゃん。か・わ・り。」
恋 「誰?」

愛川は微笑みながら美貴を指差した。
140恋愛小説家
美 「えぇぇぇぇー、私ですか?」
愛 「そう、美貴ちゃん(笑)」
美 「そんなぁ・・・。」
恋 「それは無理だろ?」
愛 「イヤ、アクションの練習してるし、朝のリハとか午前のショーも見てるんだし、きっと出きるよ。」
恋 「そうだな、それしか方法はないな。どお?美貴ちゃん」
美 「えー、そんなこと急に言われても・・・。」
愛 「美貴ちゃんしかいないんだよ、お願い。」
恋 「俺からも頼む。」
美 「そんなぁ・・・。わかりました、やります。」
愛 「ありがとう、美貴ちゃん。」
恋 「そうと決まれば、動きの練習しなきゃな。愛川は座って教えてやってくれ。」
愛 「はいよ、美貴ちゃんがんばってな。」

午後の部が始まるまでの時間、恋山と美貴はミニショーの練習をしました。一通り動きは覚えましたが
怪獣を着て演技ができるかが心配です。
美貴は休憩時間に近所で買ってきたTシャツとスパッツに着替えました。
午後の部の時間が近づいてきたので恋山と美貴は着ぐるみを着ます。
髪の毛をまとめ、面下を装着します。
いよいよ、美貴の怪獣体験の始まりです。
しかし、この後あんなことが起きるなんて・・・・・
250恋愛小説家
ショー開始15分前。いよいよ怪獣初体験です。
ヒーローマン役の恋山さんは先にスーツを着て、顔だけ出して私の着替えを手伝ってくれます。
愛川さんも湿布をした脚をかばいながら、申し訳なさそうにサポートしてくれます。
床にうつぶせの状態で置かれている怪獣の着ぐるみ。
背中のファスナーが開いていてそこから中に入ります。
着るというよりも入り込むといった表現のほうが合っているような気がします。
背中のファスナーを大きく開き、両足、両手、頭を入れます。
怪獣の中は先ほどまで着ていた愛川さんの汗で湿っています。
前回のマスコット着ぐるみと違い、着ぐるみ自体が汗を吸わない素材で出来ているので
脚の底などに汗が溜まってしまっているようです。その上、汗の臭いと着ぐるみの素材の臭いとが
入り混じり、とても臭いです。

恋 「どう?美貴ちゃん。」
愛 「臭いでしょ?」
美 「臭いですね・・・(汗)」
愛 「ごめんね。ガマンしてね。」
恋 「動けそう?」
愛 「ガンバリます。」
恋 「立ち上がれるかな?美貴ちゃん。」
251恋愛小説家
うつぶせに置いてある怪獣に自分もうつぶせ状態で入り、手・足を伸ばし怪獣スーツに合わせます。
恋山と愛川に支えてもらいながら立ち上がります。背中のファスナーはまだ閉められていません。

愛 「前見える?」
美 「ほとんど見えません」
恋 「歩ける?」

一歩づつ、ノッシノッシと歩いてみる。

美 「脚が上がらないですー。」
愛 「そうだね、怪獣だからなるべく足をあげて両手を開いて歩いてよ。」
美 「あと、スゴイ重いんですけど・・・。」
愛 「女の子にはキツイよなぁ・・・。」
恋 「ゆっくりと動けばいいよ。あとは俺がフォローするから。」
美 「はい。」
愛 「じゃ、そろそろ行くよ。背中閉めるよ、美貴ちゃん」

愛川がヒーローマンと怪獣の背中のファスナーを閉めた。

愛 「どう?美貴ちゃん」
美 「・・・。」
愛 「美貴ちゃん?」
美 「声とか音とか聞きづらいんですけど・・・。」
252恋愛小説家
スーハァー、スーハァー

怪獣の中に自分呼吸音が響く。

愛 「じゃあ、そろそろ時間だから出るよ」
美 『はい』
恋 『よし、行こう』

ヒーローマンが先に部屋をでて、その後を愛川に手を引かれながらゆっくりと怪獣が出ます。

愛 「はい、階段だから気をつけてね」

正面すら薄っすらとしか見えない怪獣の覗き穴ですので足元なんてまったく見えない。
踏み外しそうになりながらもなんとか階段をクリアする。
ここからは怪獣らしく、なるべく脚を上げ、手を大きく開き、ノッシ、ノッシと歩く。

美 (ハアハア・・・暑いよー、重いよー、それになんか臭いし・・・)
美 (でも、愛川さんの代わりだからガンバらないと・・・)

ミニ・ショーのスペースに到着し、ショーがスタートする。
テープから流れる怪獣の鳴き声にあわせてカラダを動かす。
視界がはっきりしないため、自分がどっちを向いているのかもわからなくなることもあった。
そのつど、ヒーローマンがうまくフォローしてくれた。
ショーの最後、ヒーローマンの必殺光線を浴びて、怪獣が倒れる。
253恋愛小説家
美 (やっと終わりだぁ・・・。早く脱ぎたいよぉ・・・)

チビッコの盛大な拍手を浴び、ショーは終了した。
ヒーローマンがチビッコと握手をしている隙に、愛川が怪獣に近寄り、腕を持って怪獣を起こす。
怪獣の喉のあたりに顔を近づけ小声で

愛 「大丈夫?美貴ちゃん」
美 『平気じゃないです。暑くて・・・、早く脱ぎたいです・・・』
愛 「もうちょいだからね。さぁ、戻るよ」

先ほどのような事故が起きないように十分に注意する愛川。
階段を上がるときは両腕を持ってフォローしてくれた。
怪獣が部屋に入るとほぼ同時にヒーローマンも戻ってきた。
愛川はすばやくヒーローマンの背中のファスナーをおろす。
ヒーローマンは自分でスーツを上半身だけ脱いで怪獣に手を貸す。

恋 「ガンバったねぇ、美貴ちゃん。ちょっと、待ってね」
愛 「はい、ごくろうさん。すぐ、出してあげるからねぇ、いい?開けるよ」
254恋愛小説家
ジィ、ジ・・・・・

愛 「あれ?」
恋 「おい、何やってんだよ。」
愛 「ちょっとまてよ・・・。あれ」
恋 「おいおい、マジかよ・・・」
愛 「あせらすなよ・・・あれ・・・」
恋 「急げよ、美貴ちゃん大変なんだぞ・・・・」
愛 「わかってる、わかってるよ。だから一生懸命やってんだよ・・・」
恋 「落ち着け、落ち着け」
愛 「あれ、ダメだ・・・」
美 『あのー・・・。まだですかぁー・・・』 (こもった声)
愛 「ちょ、ちょっと待ってね・・・」
美 『なんかあったんですかぁ・・・?』 (こもった声)
恋 「いや、それがさぁ・・・」
愛 「ファスナーが噛んじゃって開かないんだよ・・・。あれ・・・」
美 『・・・・』
恋 「すぐ出してあげるからね、美貴ちゃん・・・」
愛 「ダメだ。ビクともしないよ・・・どうしよう?」
恋 「どうしようって言ったって・・・どうすんだよ」
美 『・・・・』
255恋愛小説家
怪獣の中の美貴はたいへんな状態になっていた。
初めて着た怪獣の着ぐるみ。汗と着ぐるみの素材の入り混じったなんとも言えない臭い。
視界もほとんどなく回りの状況もあまり把握できない。通気性のない着ぐるみなのでとても息苦しい。
やっと脱げると思って控え室までたどり着いたのにトラブル発生で脱ぐことができない。
全身から汗が吹き出ているのが分かる。

(暑い、苦しい、喉が渇いた。早く脱がせて・・・・)

恋 「そうだな、そうするしかないか・・・」
愛 「美貴ちゃん、聞こえる?」

怪獣の正面に立った愛川の姿が覗き穴の向こうに薄っすらと見える。

美 『はい、聞こえます・・・』 (こもった声)
愛 「よーく聞いてね。背中のファスナーが噛んじゃって開かないんだよ。」
美 『・・・・』
愛 「でね、無理やり開けるとファスナー壊れちゃいそうなんだ。」
美 『・・・・』
愛 「そうすると残りのお遊びタイムに着ぐるみが使えなくなっちゃうから、悪いけどこのままガンバってほしいんだ」
美 『えぇぇぇぇぇー』(こもった声)
愛 「暑いのも苦しいのもわかる。でも、お遊びタイムは演らないとマズいんだよ。ゴメン」
256恋愛小説家
美 『そ、そんなぁ・・・』(こもった声)
恋 「それしか方法がないんだよ。なるべく早めに終了するようにするから・・・」
美 『・・・・』
愛 「ごめん、美貴ちゃん。」

部屋にあった扇風機を怪獣の喉の覗き穴に向けてスイッチを入れるが、美貴にはまったく風が感じられない。
せめて水分だけでもと思うがそれもできない。
後ろでは愛川と恋山がどうにかファスナーを下ろそうとガンバっている。

愛 「ダメだぁ・・・」
恋 「時間もないしな・・・」
美 『・・・』
愛 「美貴ちゃん、行ける?」
美 『ガ、ガンバってみます・・・』
恋 「よし、行くか。愛川、ファスナー頼む」
愛 「はいよ」

ヒーローマンのファスナーが閉められ、準備OK。
まずはヒーローマンが部屋を飛び出していく。

愛 「じゃあ、行こうか、美貴ちゃん」
美 『はい・・・』
257恋愛小説家
フラフラになりながらもやっと脱げると思い、たどり着いた控え室から再び会場に戻る。
汗でTシャツがカラダに張り付いているのが分かる。

美 (暑い、暑い、あつ・・・い。ハアハア・・・)

怪獣を見て逃げ回るチビッコ、ヒーローマンの必殺光線のマネをするチビッコ、不思議そうな顔をして見ているチビッコ・・・
いろんなチビッコが怪獣の周りに集まっているが美貴にはほとんど見えていなかった。
最初に控え室で怪獣を着てからすでに40分近く経過している。
途中で脱ぐことも、水分を補給することもできず、怪獣の中に閉じ込められている。
歩くたびに足元に溜まった汗がグチュグチュするのがわかる。
写真を頼まれ必死の思いでポーズを作る。
チビッコに叩かれようがもはや抵抗する元気もない。

美 (ハアハア・・・。助けて、愛川さん・・・)

しかし、倒れるわけにはいかない。きちんとやり通さなければ。
お遊びタイムは早めに終了すると言っていたが一向に終わる様子がない。
覗き穴の向こうに薄っすらと愛川の心配そうな顔が見える。
258恋愛小説家
愛川に向かって両手を大きく広げる怪獣。
ヒーローマンが怪獣の前にきて、『まだ平気か?』というようなポーズをとる。
片手を振り、『もう限界です』というポーズをする。
チビッコの数は少しも減る様子がない。
すでにお遊びタイムも15分を過ぎようとしている。
1回目の愛川が怪獣を演じたときと同じだ。しかし、あのときは途中で休憩ができた。
美貴は控え室を出てからずっと着っぱなしの状態だ。
さすがにこれ以上は危険と判断した愛川がなかば強制的にお遊びタイムを終了した。
怪獣の前に立ち、控え室に戻ることを小声で美貴に告げる愛川。
チビッコがついて来ないようにヒーローマンだけは怪獣が控え室に到着するまでもうしばらく残ることになった。

愛 「美貴ちゃん、階段だよ。気をつけてね。1,2,3。はいOK」
美 『・・・・』

扉を開けて控え室に入る。

愛 「恋山連れてくるからちょっと待ってて。」
美 『・・・・』

愛川は痛めた脚を引きづりながらも大急ぎでヒーローマンを迎えにいった。
259恋愛小説家
美 (もうダメ・・・早く脱ぎたい・・・ハアハア・・・)

ドタン・・・・・

美貴はついに倒れてしまった。
愛川はヒーローマンを迎えに行っていない。

美 (愛川さん・・・・)

意識が遠のく美貴。
自分のチカラでは立ち上がることも、動くこともできない。

愛 「おい!美貴ちゃんね大丈夫か?」

愛川とヒーローマンが戻ってきた。
すばやくヒーローマンのファスナーを下ろす。
後頭部のファスナーの開いた部分を両手でひらき、汗だくの顔をだす恋山。
手袋を外し、上半身だけスーツを脱ぎ、心配そうに怪獣に歩み寄る。

恋 「美貴ちゃん、美貴ちゃん」
美 『・・・・』
262恋愛小説家
愛 「どうしよう・・・」
恋 「どうしようって、早く脱がせないと・・・」

怪獣のファスナーを必死に下ろそうとする愛川。

愛 「だめだ、やっぱり開かない・・・」
恋 「切るしかないな・・・」
愛 「そうだな、怒られても仕方ないな」
恋 「緊急事態だもんな」

愛川はカッターでファスナーの噛んでいる着ぐるみの一部を切った。

ジ、ジ、ジ、ジィー

背中のファスナーが下りる。
開いた怪獣の背中から美貴のTシャツが見える。

愛 「美貴ちゃん、大丈夫かぁ?」
美 「・・・」
恋 「美貴ちゃん」
美 「・・・」
愛 「とにかく早く出してあげなきゃ」
263恋愛小説家
愛川が怪獣の開いた背中に手を入れ、美貴を抱きかかえて引っ張り出そうとする。
恋山は着ぐるみを押える。
美貴の背中には汗で濡れたTシャツがぴったりと張り付き、ブラジャーの線がくっきりと浮かび上がっていた。
照れてなんかいられない。
愛川は美貴の体に手を回し、引っ張る。回した手に美貴の汗とぬくもりを感じる。
やっとの思いで美貴の上半身が怪獣から出てきた。
愛川はそっと抱きかかえたまま、自分の膝をまくら代わりにして美貴を床に寝かせる。
恋山が怪獣の足をひっぱり、ついに美貴は怪獣の中からでられた。
264恋愛小説家
愛 「美貴ちゃん!」

美貴の頬を軽く叩く。

美 「・・・ん・・・。」
愛 「美貴ちゃん、平気かぁー」
美 「ウゥ・・・ン・・」
恋 「おぉ、気がついたみたいだな」
愛 「よかったぁ・・・」

愛川はタオルで汗だくの美貴の顔を拭いてあげる。
美貴の頬は真っ赤に紅潮していた。
一安心した恋山はヒーローマンのスーツを脱ぎ、ジャージに着替えた。
265恋愛小説家
恋 「なんか冷えたジュース買ってくるよ」
愛 「あっ、ああ」

着替え終わった恋山が部屋を出て行く。
部屋には美貴と愛川のフタリだけになった・・・

愛 「美貴ちゃん・・・」
美 「あっ・・・、わたし・・・」
愛 「そっかぁ、覚えてにないのかぁ・・・」
美 「わたし、気失っちゃったんですね・・・」
愛 「無理させてゴメンね」
美 「いいえ、そんなことないですよ。」
愛 「いや、ほんと悪かったよ」
美 「私こそ、あの程度で倒れちゃうなんて・・・」

愛川の目の前には汗で張り付いたTシャツに浮かび上がった美貴の胸がある。
美貴を心配しつつも、どうしても視線がそちらにいってしまう愛川。
266恋愛小説家
愛 「何言ってるんだよ。美貴ちゃんはガンバったよ」
美 「そ、そうですか・・・」
愛 「暑いし、苦しいし。それに臭かっただろ・・・」
美 「臭くなんか・・・」
愛 「俺のあとだもんな。ゴメンなぁ」
美 「愛川さんのあとなら・・・」 ボソッ
愛 「えっ?」
美 「私、愛川さんのことが・・・」

見つめ合うフタリ・・・
美貴が目を閉じる・・・
267恋愛小説家
ガチャ

恋 「ただいまー。あぁ、美貴ちゃん、気がついたみたいだね。」
愛 「・・・」
美 「・・・」
恋 「コーラとポカリ、どっちがいい?」
愛 「・・・コーラ」
美 「・・・ポ、ポカリがいいです」
恋 「どうかしたの?フタリとも?」
愛 「べーーーーーつに!ね、美貴ちゃん」
美 「えっ、ええ・・・」
恋 「なんかヘンなフタリだなぁ・・・。さぁ、片付けて帰る準備しないとな」
愛 「そうだな。片付けて撤収だぁー」
美 「はい。」

この後、美貴と愛川がどうなったのかは、みなさまのご想像にお任せします。 

お・わ・り