汗と熱気とピンクの香り(仮)

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152新参小説家
5月5日。こどもの日。
それは、ゴールデンウィークの最終日でもあり、キャラクターショーの開催数もダントツに多い日でもある。
その日の僕の現場は、某ショッピングセンターでの戦隊ヒーローショーのPA。
PAとは、音響担当のことである。
現地で機材のセッティングをして、BGMや本編の音を流す役割だ。
チームによっては、ヒーローの声あてをするところもあるようだが、ウチのチームは、あらかじめショーテープを完パケで作っているので、声あては必要ない。
さらに今日の僕は、ドライバーでもあり、チーフ(現場の責任者)でもあったのだ。
そして、MC、キャストともに、全員外注さん。
つまり、僕以外、ウチのチームのメンバーは一人もいないのだ。
朝、機材と衣装を積んだワゴンを運転して、集合場所である事務所の最寄り駅へと向かう。
駅につくと、彼らは全員集合していた。
キャストとMCであわせて8人。その中に女の子は2人。
一人はものすごくかわいい娘だった。
目がクリッとしていて、いかにもキャピキャピのMCといった感じ。
彼女の名前は美絵といった。
もう一人は、普通というか何というか、僕のタイプではなかった。
彼女がピンクに入るのか。ふーん。
メンバーを全員乗せ、僕は車をスタートさせた。
153新参小説家
今回のメンバーは外注だが、MCを含めた8人は全て同じ事務所の人である。
なので、車の中はで8人は大きく盛り上がっている。
と思ったが、どうやら一人ポツンとしている。
MCの美絵ちゃんだ。
キャストはリハーサルを行っているから団結力が強くて、MCは一人だからポツンとしているのかな?
ショッピングセンターに到着。
車を搬入口につけ、荷物を降ろす。
衣装を控え室まで運ぶ。
バックヤードにある会議室が、今回の控え室であった。
部屋の入口には、ウチのチームの名前が書かれた紙が張ってある。
「あとで担当さんと軽い打ち合わせをするからよろしくね」
僕は美絵ちゃんにそう言うと、彼女は不思議そうな顔をしていた。
ショーのステージの場所を確認しに行った。
今日のステージは正面入口。
お昼になると、日差しをモロに受けそうな場所だ。
キャストの人たちは大変だな。
154新参小説家
担当さんとの打ち合わせのため、僕は美絵ちゃんを呼んだ。
きょとんとする美絵ちゃん。
すると、もう一人の女の子が割って入ってきた。
「いやですね。MCは私ですよー」
僕が、てっきりピンクに入ると思っていた娘が、MCだったのだ。
この娘がMCということは、美絵ちゃんがピンクに入るのか。
ショー前の告知の有無、ショー終了後の握手会の段取り等、確認する。
しかし、僕の頭の中は、ピンクの衣装を着た美絵ちゃんしかなかった。
いや、こんなところで妄想しなくても、もう少しすれば、美絵ちゃんのピンクが目の前で見れるというのに。
打ち合わせが終わり、控え室に戻った僕は、美絵ちゃんに笑って言った。
「ごめん。てっきり美絵ちゃんがMCかと思っちゃった」
「普段はMCなんですけど、今日はどうしても人が足りないって言われて、キャストに回されたんですよ」
「アクションは何回か入ったことあるの?」
「ううん。アクションどころか、着ぐるみ今日が初めてなんです」
「初めてなんだ。期待してるよ」
僕は、ちょっと意地悪っぽく言ってみた。
155新参小説家
「じゃあ、そろそろ準備お願いします」
時計を見た僕がそう言うと、メンバーは衣装と小道具を持って移動を始めた。
店内から一歩外に出た瞬間、熱気に包まれる。
屋外でのショーの場合、雨も困るが、暑過ぎるのは尚のこと辛い。
そして、さらに辛いのは、隠れ用テントの中である。
風が入らないので、蒸し風呂状態だ。
30分前になり、BGMを流す。
ショーが始まるんだという雰囲気が高まってくる。
時間を見計らって、僕はテントの中を覗く。
もちろん、お目当ては美絵ちゃんだ。
ドンピシャ。
ちょうど、下面をつけた美絵ちゃんがピンクの衣装を着始めるときだった。
皆に悟られないように美絵ちゃんを凝視する。
「大丈夫ですか? オンタイムでいけますか?」
「大丈夫でーす」
美絵ちゃんが衣装の袖に腕を通す。
徐々にピンクのヒロインに変身していく。
156新参小説家
ここぞとばかりに、僕は美絵ちゃんの後ろに行く。
「じゃあ、後ろ上げますよ」
「お願いしまーす」
僕は美絵ちゃんの背中のファスナーを上げた。
少し小柄な美絵ちゃんには、若干衣装が大きかったようだ。
時間に余裕があるときは、衣装をつめたりするのだが、今日はそんな暇はない。
脇から腰にかけて、衣装が少しダブついている。そこがまたいい。
しかし、よく見ると、上半身は少し衣装がたるんでいるのに対し、下半身、特にお尻はパッツンパッツンだった。
着替える前はわからなかった美絵ちゃんの体のライン。
スーツを着た後は、別パーツになっているスカート、ベルト、ブーツ、手袋を装着する。
あとは面をかぶるだけだ。
ピンクのコスチュームを身に纏い、下面姿の美絵ちゃん。
スカートのファスナーが飛んでしまいそうなくらいの大きなお尻。
本当は、携帯のカメラで写真を撮りたいところだったが、そんなこともできないので、じっと脳裏に焼き付けた。
「それじゃあ、オンタイムでお願いしまーす」
そう言って僕は、テントを出た。
157新参小説家
そしてオンタイム。
MCのお姉さんの前説が終わったところで、怪音が鳴り響く。
「人間ども、よく聞け、今からここは我々○○のものだ! ものども、かかれ!」
ドスのきいた声とともに、戦闘員が現れる。
3人の戦闘員が、客席の子供たちを脅かす。いわゆる会場襲撃というやつだ。
そして、先ほどの声の主である悪ボスも登場。子供たちが悲鳴を上げる。
そこに、また別の声がはいる。
「ちょっと待ったー!」
イエローとピンク、2人のヒーローの登場だ。
ピンク姿の美絵ちゃん。かわいい…
「あなたたちの好きにはさせないわ!」
襲いくる戦闘員を軽くあしらうイエローとピンク。
「ならば今度は私が相手だ!」
今度は、悪ボスがイエローとピンクに襲い掛かる。
悪ボス優勢、ヒーローピンチ。美絵ちゃんが危ない。なんてね…
そこに響くレーザー銃の音に続いて、子供たちお待ちかねのレッドが登場だ。
「大丈夫か? イエロー、ピンク」
「1人増えたところでかわりはない! 行くぞ」
悪ボスがそう叫ぶと、復活した戦闘員がヒーローに襲い掛かる。
レッド、イエロー、ピンク対悪ボス、戦闘員。前半のクライマックスだ。
そして、ヒーローの勝ち。退散する悪人たち。
「会場のみんな、怪我はなかったかい?」
「でも、ヤツはまだきっとどこかを襲うに違いない!」
「私たちは他の場所のパトロールに行ってくるけど…」
「何かあったら、すぐに俺たちを呼んでくれよな!」
3人のヒーローが、颯爽とステージからはける。ここで前半終了だ。
158新参小説家
そして、MCと悪ボスによる「お遊び」が始まる。
今回は、オーソドックスなクイズ大会である。
その間、隠れではしばしの休憩。
前半に戦闘員として出ていた3人が、それぞれ、ブルー、グリーン、怪人に着替えるのだ。
テントの中では、汗だくの美絵ちゃんが面をはずして息を整えてることだろう。
そして、クイズの3問目の終了をきっかけに、後半のテープを流し始める。
「いったいいつまで遊んでいる気だ」
悪の組織の首領の声だ。
「ははー!」
悪ボスがひれ伏す。そしてMCに叫ぶ。
「ふふふ、お遊びはここまでだ。そろそろ作戦の第二段階の準備が整った! 出でよ! 怪人○○!」
悪ボスの叫びに、怪人が登場、ふたたび会場を襲撃する。
「みんなー! ○○レンジャーを呼んで!」
MCのお姉さんが叫ぶ。
「みんなで○○レンジャーを呼ぼう! せーの、○○レンジャー! ○○レンジャー!」
2コールをきっかけに、音源は次のトラックに移る。
「そこまでだ!」
ヒーロー5人の登場だ。名乗りを決める。否が応でも盛り上がる。
美絵ちゃんピンクも、控えで何度も練習していたポーズが決まる。
そして、5人揃ったヒーロー対悪の戦いが始まった。
159新参小説家
戦いが始まりしばらくすると、悪ボスが逃げる。それを追うレッド。
残る4人が怪人と戦う。
後半は疲れもたまっているはず。
美絵ちゃんピンクの蹴りは、あまり上がっていない。
がんばれ美絵ちゃん!
4人の攻撃をかいくぐり、怪人が逃げる。それを追って4人もはける。
そして次は、剣を持ったレッドと悪ボスの一騎打ち!
レッドの必殺剣が、悪ボスを撃退。
「覚えていろ!」
定番のセリフとともに、悪ボスがはける。
「うわあっ!」
そこへ、残りの4人が、怪人のパワーに圧倒されながらステージへ。
「俺様の力、思い知ったか!」
「こいつ、強え」
「弱音を吐くんじゃない!」
叱咤激励するレッド。
「5人で力を合わせれば、絶対に勝てる!」
「みんな! ○○レンジャーを応援してあげて! がんばれー!」
MCのお姉さんが子供たちを盛り上げる。ラストの山場だ。
しかし、そのとき、会場から失笑がおこった。
段取り的には、子供たちの声援を受けた5人が復活、剣を高々と掲げるシーンである。
そこで何故笑いが?
160新参小説家
原因はすぐにわかった。
美絵ちゃんピンクだ。
本来、剣はベルトの左腰の鞘に収められている。
しかし、ベルトの締め方が少しゆるかったのか、アクションの最中、鞘が前の方にずれてしまっていたのだ。
美絵ちゃんピンクは、剣を股間からブラブラさせていた。
面をつけていると、真下はほとんど見えない。
美絵ちゃんは気づいていないようだ。
音に合わせて剣を抜こうと、右手を左腰に持ってくる。
しかし、そこに剣はない。
面の中で焦っている表情の美絵ちゃんが見えるようだ。
完パケのショーテープは、無常にも物語は進んでいく。
5人が高々と剣を掲げるシーンで、美絵ちゃんは股間から剣をブラブラさせていた。
161新参小説家
それでもショーテープは進んでいく。
復活した5人が、怪人に最終決戦を挑む。
格好よく決めなくてはいけないところだが、美絵ちゃんはさっきの一件から、パニックになっているようだった。
そこがまたかわいい。
そしてラスト、4人がパンチやキックを繰り出し、ラストはレッドの剣でフィニッシュ!
爆発音とともに怪人は撤収、ステージ上のヒーロー。
「…TVでも、俺たちのこと、応援よろしくな!」
「ありがとう○○レンジャー」
MCのお姉さんが登場して、入れ替わりでヒーローがはける。本編はここで終了。
本編トラックをフェイドアウトさせ、音源をBGMに切り替える。
後は、握手会終了まで、音は流しっぱなしでOKだ。
そして僕は、すかさずテントの中へ入り、美絵ちゃんの面をはずした。
パチッ、パチッ。
美絵ちゃんの汗のにおいと熱気がモワッと広がる。
「ごめんなさーい」
開口一番、美絵ちゃんは泣きそうな顔で叫んだ。
「反省は全部終わってから。まだ、握手会残ってるから」
シュンとする美絵ちゃん。
「握手会は、下手に列作って上手に流すから。列がだいたいできたところで、また確認に来ます」
僕は、チーフらしい毅然とした態度で言って、テントを出た。
だいたい列ができたところで、テントの中を確認。
スタンバイができたところで握手会の開始だ。
162新参小説家
MCのお姉さんのコールとともに、ヒーロー5人が登場。
スタッフは、悪ボス役と怪人役のメンバーと僕だ。
握手会のスタッフの仕事は、とにかく列を止めずに流すことだ。
僕は迷わず美絵ちゃんピンクの横についた。
至近距離で見る美絵ちゃんピンク。
テントの中は少し暗くてわからなかったが、下面の首の部分は汗でびっしょりだ。
後ろでたばねてお団子にしていた髪が、少し下に下がり、首の後ろの上のほうの部分が不自然に盛り上がっていた。
日差しが強い。
美絵ちゃんが肩で息をしているのがわかる。
それでも子供と握手をしては、バイバイと手を振っている。
立っていられなくなって、しゃがで握手する美絵ちゃん。
あからさまに疲れているのがわかる。でも、やってもらわなければならない。
長かった握手会の列もようやく最後尾が見えてきた。
「残りのお友達もう少しでーす」
美絵ちゃんを励ますつもりで、僕は大きく叫んだ。
終わりが見えたら元気が出たのか、美絵ちゃんはそこから残りはガッチリと握手をしていた。
最後の子供と握手が終わり、立ち上がろうとした瞬間、美絵ちゃんはよろめいた。
とっさに僕は、美絵ちゃんの体をささえる。
手触りの良いツルツルの衣装を通して伝わってくる美絵ちゃんの体のあったかさ。
ちょっとよろめいただけの美絵ちゃんは、すぐに「大丈夫」とばかりに拳を握った。
けなげな姿だ。
163新参小説家
怒涛の1ステが終わり、今は皆、エアコンのきいた控え室にいる。
冷たいドリンクを飲んで、ひと時の休憩。
衣装と小道具は、控え室に持って上がる。
テントに置きっぱなしだと、盗難の恐れがあるからだ。
汗をかいた衣装が、部屋のいたるところに干してある。
もちろん、美絵ちゃんの着ていたピンクのスーツもだ。
着たい!
僕はそんな衝動に駆られた。
でももちろん、みんながいるので、そんなことはできない。
担当さんが、お弁当を持ってきてくれた。
弁当を食べていた僕は、妙案が浮かんだ。
今日の現場で、事務所のメンバーは僕一人だけだ。
帰りは、駅で皆を降ろして、事務所に戻るのは僕一人だ。
つまり、皆を降ろしてから事務所に帰るまでは…
美絵ちゃんの着ていたピンクの衣装が着れる!
それも、今日のこの天気。たっぷりと汗を吸い込んだ美絵ちゃんが着ていたスーツ。
事務所に戻ったら、どうせ衣装は洗うのだし。
車の中では狭いから、どこかトイレにでも持ち込んで。
そういえば、駅前のスーパーの車椅子ごと入れるトイレ。
あそこは広くて、しかもきれいだ。
誰にもばれる心配がなく、美絵ちゃんの着ていたピンクの衣装が着れる!
僕は帰りが待ち遠しくてたまらなかった。
166新参小説家
2ステ目が始まる。
ベルトをしっかり締めた美絵ちゃんピンクは、剣を股間でブラブラさせることもなく、ショーは進んだ。
でも、美絵ちゃんピンクがパニクった1ステのが、見ていて面白かったな。
不謹慎にもそんなことを考えながら見ていた。
特に大きな問題もなく、ショーは終わりを迎えようとしていた。
しかし、午後の日差しは、午前中のそれに比べてはるかに強い。
体力の消耗具合はかなり大きいだろう。
本編終了後、音をBGMに切り替えると、僕は急いでテントに入った。
もちろん、真っ先に美絵ちゃんの面をはずすためだ。
フラフラとよろけるように入ってきた美絵ちゃんピンク。
が、美絵ちゃんピンクはそのまま僕のほうに倒れてきた。
僕はあわてて美絵ちゃんの体をささえる。そして、急いで美絵ちゃんの面をはずす。
朦朧とした表情の美絵ちゃんの顔。
「大丈夫?」
「大丈夫です…大丈夫です…」
うわごとのようにつぶやく美絵ちゃん。
「ホントに大丈夫?」
「大丈夫です…大丈夫です…」
全然大丈夫ではなかった。
ここで、僕は新しい考えがひらめいた。
美絵ちゃんを休ませて、僕がピンクを着て握手会に出る!
事務所に帰る途中までなんか待てない!
今すぐ着たい!
トイレで着るなんて寂しすぎる!
お客さんの前に立ちたい!
美絵ちゃんの脱ぎたてのコスチュームを着て!
184新参小説家
「脱いで!」
いきなりそう言われた美絵ちゃんはきょとんとしていた。
「握手会、僕が着て出るから」
「大丈夫です!」
意識が戻ってきたのか、さっきよりは強い口調で美絵ちゃんは答えた。
「倒れられても困るから!」
「大丈夫です!」
「お客さん、1ステより多いし、たぶん30分くらいかかりそうだし」
「だ、大丈夫です」
「○○レンジャーは5人なんだよ! 途中で一人抜けるわけにもいかないんだよ!」
「………」
最後には、僕はチーフ権限をごり押しした。
「はい…」
美絵ちゃんは弱々しく答えた。
僕は美絵ちゃんの後ろのファスナーを降ろし、ベルトをはずし、スカートのファスナーを下ろし、ブーツのファスナーを下ろした。
フラフラとしながら、スーツを脱ぐ美絵ちゃん。
半ば無理矢理脱がせかたちだ。
初めは抵抗していた美絵ちゃんも、これで休めるとわかった瞬間、安堵の表情を見せ、僕に脱がされるままになっていた。
僕は急いで服を脱ぎ、Tシャツにトランクス姿になる。
そして、美絵ちゃん脱ぎたてのピンクのスーツに足を通す。
美絵ちゃんのぬくもりが伝わってくる。
股間が熱くなってくる。
185新参小説家
スーツを下半身まではいたところで、足首のファスナーを上げ、美絵ちゃんの感触を確かめる。
ブーツをはく。
下面をつける。
美絵ちゃんの汗でびっしょりだ。
気持ちいい。
ホントはじっくり感触をかみしめたいが、そうもいかない。
急いで着なければならない。
下面装着後、上半身の袖に腕を通す。
美絵ちゃんの汗がしっとりとしみこんでいる。
股間が大きくなってしまったのがばれないように、あわててスカートをはく。
そしてベルトを固定。あとは、手袋と面だけだ。
美絵ちゃんの脱ぎたてのコスチュームを着ている僕。
手袋に手を入れると、中になにか入っていた。
美絵ちゃんがピンクの手袋の中につけていた軍手だった。
もちろん僕は、美絵ちゃんの汗がたっぷり染み込んだ軍手に指を通した。
いよいよ面の装着だ。
美絵ちゃんの汗が思いっきり染み込んだ額とあごのクッション。
面の中に広がる美絵ちゃんの甘い香り。
ついに、ついに、僕はピンクのコスチュームを完全に身に纏った。
そして、ついさっきまでこのコスチュームを着ていた美絵ちゃんが、Tシャツにスパッツ姿の美絵ちゃんが、僕の目の前にいる。
興奮を抑えろというのが無理な話だ。
MCのお姉さんの呼びかけとともに、待望の握手会が始まった。
195新参小説家
勢いよくテントを飛び出すと、明るい空の下に大勢のお客さんたち。
美絵ちゃんのスーツを着た僕の顔は、相当にやけていたに違いない。
でも、周りからは、可憐なピンクのヒロインに見られている。
それがまた興奮をかきたてる。
子供たちひとりひとりとがっちり握手する。
手袋の中の美絵ちゃんの軍手の感触を確かめるように。
握手会の列の最後尾は見えない。
いや、そんなものは見えなくてもいい。
もうこのまま、ずっと着ていたい気持ちだ。
30分くらい経っただろうか。
列の最後尾が見えてきてしまった。
ああ、僕がピンクでいられる時間はあと少しだけなのか…
最後の子供との握手が終わった。
と思ったら、その後に何人か大人がきた。
たまにいる、いわゆる「大きなお友達」だ。
まあ、ショーの追っかけ的な人は、結構いるからなあ。
そして、至福の時間だった握手会が終わろうとしていた。
MCのお姉さんが元気良く叫ぶ。
「○○レンジャー、今日はどうもありがとう! まったねー!」
テントに戻った僕は、怪しげな影に遭遇した。
196新参小説家
中には、美絵ちゃん一人しかいないはずなのに。
人影は、事務所の社員のYさんだった。
どうしてここに?
何故か、僕には一瞬で答えがわかった。
こういう時に限って、頭の回転がはやかった。
Yさんの今日の現場は、僕が来ているショッピングセンターの比較的近くだったのだ。
その現場のメンバーが、終わった帰りに僕の現場に寄ったのだ。
事務所のメンバーが僕一人しかいない現場の撤収を手伝ってくれるために。
ウチの事務所では、よくあることだった。
よくよく考えてみれば、最後の大きなお友達は、事務所のメンバーだった。
Yさんを目の前にして、僕はどうしていいのかわからなかった。
今すぐ、この格好のまま、この場から逃げ出したかった。
しかし、行くあてなどあるわけない。
体の震えが止まらない。
Yさんは僕の股間を鷲づかみにして言った。
「どうしてお前がピンクに入ってるんだよ」
僕の面の留め金に、Yさんの手が伸びる。
パチッ。
パチッ。
僕は、どんな顔を皆にさらけ出せばいいのか、わからなかった。

おわり