仮面の裏側(仮)

状態
未完結
文字数
3,265
投稿数
3
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Plain Text
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575名無したん@着ぐるみすと
文章力はさておき 感化されたので書いてみました。


プロローグ
  
「ひどく暑い・・・」健司は、更衣室を出る前の段階で
すで憔悴していた。
蒸せ返るような更衣室の中で恥ずかしさのあまり
急いで着替えたのが災いしたのだ。
災い? 望んだことではなかったのか?
汗で湿った肌タイが優しく全身を圧迫する。
マスクは覗きがグラス仕様なので曇りそうだったが
「先輩」の助言により眼鏡用曇り止めを塗布していたので 
なんとか視界は確保できた。

イベントは初めてだったが健司は、「先輩」がいることで安心していた。
しかし着替えるスピードの差は歴然だった。
「先輩」は、家で下半身を着替えて来ていたのだ。 
確かに肌タイまでなら上から普段着を着ればばれる事はない。

「さすが 先輩 準備がいいですね」と健司は、世辞を言った。
「先輩」は、笑顔を返してくれるだろう。
「先輩」の顔の筋肉は健司の予想通りの表情を作り出した。

 肌タイを着る時に感じ 衣装を着るときにも感じたあの快感は、
もうマスクを被る時には絶頂だった。
自分が違うモノになる、しかも好きな作品の登場人物になる瞬間が来たのだ。
健司は何の躊躇もなく、それを装着した。 

 着ぐるみを着る時に感じるこの感動も慣れてくるとなくなってしまうのだろうか
作業のように無感動にそれを実行している自分の姿を想像して
健司は少し悲しくなった。

「先輩」はすでに「先輩」ではなかった。
中堅メーカー製ギャルゲーの登場人物は、自動的な笑顔をしながら
手持ち鏡で髪の毛の乱れを直していた。
「あれぐらいの余裕が欲しい」憧れにも嫉妬にも近い気持ちで
健司はそれを眺めた。

中の人(「先輩」はこの言い方が大嫌いらしい)には、演じる派となりきる派が
いるらしい、 更衣室でキャラの外見を獲得したにも関わらず。
健司は素でいる時の思考パターンは捨てきれずにいた。
自分は演じる派だろう。そんなことを更衣室で冷静に分析している人間が
なりきる派であるはずがない。
だとしても健司はいつか なりきる派になりたっかった。
素の存在を消してこその着ぐるみだと「先輩」その他からそういう意見は聞いていた。
健司は、確かにその考えに同意していた。
 
ただし 健司は内臓が無心に本体を動かすのと内臓が内臓の自覚を持って本体を動かすこと。
そのどちらにも優劣はないと頭では思っていた。

「マスク被ってからはもうキャラだから何があったか覚えてないよ」
としたり顔で言うのを見ると健司は嫌な気分になった。
去年始めた人間が何をいいやがる。今回イベント初参加だから
こちらこそ偉そうな事は言えないのだが。健司は理論で攻めるつもりでいた。
キャラのすべてを了解した上で自然な動きができてこそ理想なのだ。
それにはまず演じる派での下積みが必要なのだ。

ここの男子更衣室は思ったより広かった。なので他多数と離れて着替える
男達の存在がひときわ目立つ形に見えた。
健司はキャラの萌え目を介して哀れな視線を送った。
二日前チャットで叩かれていた連中だ。 
可哀相に個性のアクが強すぎたのだ。
その反面教師の一人は、衣装の自作ができるので一目置かれていたが
サイトでイデオロギッシュな着ぐるみ論理をぶち上げたあげく
チャットで否定派を罵倒したのが運の尽きだった。
早く過ちを認め 謝罪すればいいのに。多分彼はしないだろう
何ページもテキストを吐き出すくせに 一分間ほどの謝罪もできないのだ。

 
着ぐるみは人間関係が複雑らしい、比較的中立派でとおってる派閥に入れて
健司は内心ほっとした。どうしようもない人間関係に揉まれて
脳細胞の無駄をこれ上増やしたくなかったからだ。
オフだイベントだで画策する連中が笑顔の下にどんなナイフを隠し持っているのか
健司は理解しているつもりでいた。
どうせ場所を探しては目立ちたがろうとする人間の集団なのだ 
集合写真でも真中に出張ってくるのだろう。
自分のサイトの表紙にでも使ってヒット数でも稼ぎたいのか
 
だが今の健司にはどうでも良かったこれから自分は萌えキャラとして動かなければならない。
更衣室の出口で「先輩」が 「時間だ」という合図をした。 
我々は更衣室を後にした。



多分続く…
578名無したん@着ぐるみすと
 水色の学生服を身にまとった二人の美少女キャラクターは
大きな旅行鞄を下げ
更衣室を出てクォーク(荷物置き場)に向かった。
健司は「先輩」と同じゲームのキャラという合わせが成功したことに
喜んでいたが、逆に比較されやすくなることに
プレッシャーを感じてもいた。ただ体型に関しては
健司は自分が167で「先輩」は172で共に設定身長と同じくらいであり
二人とも小柄だったので問題にならないはずだとも思った。


 実はもう一人同じゲームのキャラも一緒に合わせで参加予定であり
クォークを出た後で合流するつもりだ。 

 この水色の学生服はブレザーとミニスカートという
オーソドックスな組み合わせだったが
腰の後ろに大きな白いリボンがあり、
また色使いもメインの水色を引き立たせるように
紺やミントが要所に使われていて
可愛いと定評がある。

 健司の前を歩いているのは(つまりは「先輩」の担当キャラ)
ゲームのメインヒロインで主人公の頼りになる幼馴染というありがちな設定だが
大和撫子の王道を抑えた設定に多くのファンがついている「神無月 水菜」だ。
 健司のやっているキャラは主人公の義理の妹で一年後輩というこれまた
ありがちな設定で「瀬川 沙雪」というキャラで人気投票でもそれなりに奮闘している。
 

更衣室に素で入る時には余裕を持って通れた通路だったが。
マスクで視界の大部分が遮られ、歩くだけなのに難儀する。
 健司の前を「水菜」は足を交互に交差させるようにして
優雅に歩いていた。そして「沙雪」の頼りない歩調に合わせてくれている
ことがわかり健司は「先輩」をまた好きになった。

健司の足は普段の靴よりワンサイズ小さな
ストラップパンプスに対して抗議の悲鳴をあげている。
ただ我慢できない痛みではなかったので
健司は足の痛みを意識しないようにした。

ただ歩くという動作だけなのに股から太股にかけての肌タイが
わずかに擦れ合う感覚が心地良かった。
健司はその快感が足の痛み止めとして作用してくれるように願った。
10秒後それは無意識下で実現した。


 クォークに行く途上で肩をきって歩くレイヤーらしき男性とすれ違った。
相手の男性は着ぐるみがまるでそこに存在しないかのように
目線を前に固定したままだ。
 ただ、その化粧の施された顔に「所詮 お前らとは水と油だ」と言いたげな表情をたたえている。

角を曲がる所で清掃員の中年女性が驚いた顔で美少女着ぐるみを見ていた。
すると「水菜」が軽く会釈し「沙雪」もそれにならう。

クォークに着く頃には、ほんの短い距離を歩いただけなのに
じんわりとマスクの中が熱い。すぐ傍に「神無月 水菜」がいる状況に対して
健司は自分が「瀬川 沙雪」であるにも関わらず興奮した。
クォークでは魔法少女のコスプレをしたイベントスタッフが
 二人の美少女キャラを見て恥ずかしそうに苦笑している。
その横に座っている努めて冷静そうな施設関係者と好対照だ。

「水菜」と「沙雪」は男の普段着の入った旅行鞄を魔法少女に渡した。
施設関係者は、二人のスカートに貼ってある、コスプレ登録番号と同じ番号のタグを
鞄に着け奥の方に無言で持っていった。

クォークを離れる時にスタッフ達は「頑張ってきてくださいね」と言ってくれ
二人は笑顔を向けながら 手を小さく見せるために指をすぼめて手を振り会釈した。

建物を出ると一般客とコスプレイベント参加者がそこかしこに見受けられた。
二人の美少女キャラは合わせをやるもう一人と合流するために女子更衣室に足を向けた。

メリーゴーランドの前でアニメキャラの着ぐるみが
取り巻きと一眼レフを下げたカメコの環の中で
腰をくねらせてポーズをとっている。着ぐるみ自作系「大御所」が中の人だ。
その「大御所」が先月サブカルチャー系雑誌で
着ぐるみで子供と触れ合う喜びについて熱っぽく語っていた事を
健司は思い出した。

水色の制服を着た二人の美少女は、その横を等速度で通り過ぎた。


多分続く・・・
579名無したん@着ぐるみすと
クォークじゃなくてクロークです失礼しました(tt)