秋葉 完パケ亭

状態
完結
文字数
22,290
投稿数
54
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Plain Text
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24200/00 ◆XksB4AwhxU
以前、イベントの話を書いた者です。

前回の反省を踏まえて、今回はエロく短くを目標に書いてみましたが、
結局、長めのバカ話になってしまいました。

…ので、ダメだと思ったらサクッとスルーして下さい。

ちなみにキャラクターは、某所月間壁紙をイメージしています。
24301/52 ◆XksB4AwhxU
秋葉 完パケ亭

【 - プロローグ - 】

♀ 6月下旬某日 テナントビル2階踊り場

「カナの言う変わったバイトってコレ…?」
客商売より、キノコ栽培が似合う湿気ったビルで私
(池沢千夏 いけざわ・ちなつ21歳♀)は、呆れた。
「変わってるでしょ♪」
ふふん♪と肩まであるストレートの髪を揺らし
何故か自慢下げに胸を張るカナ(山越佳奈美 やまこし・かなみ21歳♀)を見て更に呆れる…。

「まぁ…確かに見た事はない…けど。」
梅雨の夏日が、私の額に一筋の汗を走らせる。
そして自分の中の常識と、チラシに書かれている文言とのパラレルっぷりに
暑さとは関係の無い汗が一筋流れた。

《業界初!着ぐるみメイドカフェ 完パケ亭 近日オープン予定》
《中の人急募!年齢18~25位迄。未経験者歓迎。経験者優遇!》

踊り場横が、即入り口という狭い空間の中。
今後の生活における先立つモノと、
チラシに書かれている時給との折り合いについて思案した結果。

「…ねぇ、この経験者って。メイドと着ぐるみ…どっちの事だと思う?」
覚悟を決めた所で、どーでもいいと思いつつも
最初に芽生えた疑問をカナにブツけてみた。
24402/52 ◆XksB4AwhxU
♂ 7月中旬某日 同テナントビル2階

叔父が狂った…。

「いやぁ~着ぐるみって高いね!絵描きさんに絵をかいて貰うまでは良かったんだけど、
それを等身大の3次元に起すとなるとねぇ…。いやホント。
スペア込みだと、畳みたいなTVが買えて、おつりで車が買えちゃうよ。うははははっ」
「……。」

前の喫茶店(みせ)が立ち行かなくなった所に、離婚まで突きつけられ
かなりヤバゲな精神状態だったとは、聞いていたが…。

「で、なけなしの資金を注ぎ込んで誕生したのが、この看板娘。
髪の短い方がぱっけちゃん。長い方がえーぢちゃん。どうだ?可愛いだろ?
しかも中に入っているのは、なんと声優さん!どうだ?スゴイだろ?」
「……。」

「どうだ」と言われても、リアクションに困る…。
こっちは、店の看板に書かれている 《着ぐるみメイド》 なる見覚えの無い単語だけでも
理解の範囲を越えているのに。

p 『ぱっけで~す♪』
a 『えぇぢでぇす…。』

などと、ゲンブツに挨拶された日には、どーすればいいのだ?
24503/52 ◆XksB4AwhxU
「………。」
「ははは、誠君は無口だなぁ。これじゃどっちが着ぐるみか判らないゾ。うははははっ」

自殺だの宗教だのに走られるよりはマシだが、身内にとってハタ迷惑な迷走には変わりない。
特にダイレクトに付き合わされる身としては…。

p 『ぱっけでぇ~~~すっ♪』
a 『えーぢでぇぇぇすっ!』
「うははははっ。」
「………。」

無理繰りに改装した雑居ビルの一室。
どうにも、非現実的過ぎるこの店の中で。

能天気に笑う叔父と、ナンか反応させようとしている2人の着ぐるみメイドをシカトし、
俺(胡桃谷誠 くるみや・まこと19歳♂)は、
この現実を、どう受け入れたら良いのか頭を抱えていた…。
24604/52 ◆XksB4AwhxU
【 - アキのアキバのアダバナ喫茶 - 】

♀ 11月上旬某日 完パケ亭休憩室・着替え中

『おかえりなさいませごしゅじんさま…。おかえりなさいませごしゅじんさま…。
わたしはめいど…わたしはめいど…。わたしは、きぐるみのめいどさん…。
お金が入ったらうな丼…。お金が入ったらうな丼…。国籍不明でもいいから大きなうなぎ…。』

「なっちゃん…。いい加減その陰気臭くてビンボ臭い役作り止めてよね…。
端から見てると、壁とおしゃべりする人に見えて、むちゃくちゃコワイよ。」

『…しょーがないでしょ。こうしないと役に成り切れないんだから。』
「でも、もぅすぐ4ヶ月だよ。よんかげつ。いい加減吹っ切れよーよぉ…。」

鏡の中の全身タイツカナが、メリケン的なジェスチャーをかましながら呆れている。
まったく…人が涙ぐましい努力で、頭のスイッチを入れようとしているのに失礼な奴だ。

『私はカナみたいに、お面被っただけじゃテンション上がらないのよ。』
「そんなのコスプレの延長だと思えば普通に楽しく…なる…よ…っ、ちょっと閉めて。」

メイド服を着込んだカナが、ぱっくりと開いた背中を向けチャックを閉めるよう促す。
この衣装は、着ぐるみと謳っているだけあって、通常のエプロンドレスより厚く
カラーから腰のリボンまであるチャックを開けて中に入る仕組みだ。
高そうなの生地や凝ったレース模様から判断して、結構な値段がするだろう。
24705/52 ◆XksB4AwhxU
厚手の全身タイツの上に、このドレスを着込むと、当然暑い。
夏場などは、デンコちゃんが青筋立ててブチキレるくらいエアコンを効かせないと
間違い無く倒れる。

『コスプレねぇ…。やった事ないからワカンナイわ。』

溜息に合わせながら、閉まってゆくチャック。
毎度のコトながら、着ぐるみが相手を着ぐるみにして行くというのは変な感覚だ。
ゾンビが仲間?を増やす時は、こんな気分かもしれない。
取り合えず、かゆうま感覚とでも命名しておこう。

「なっちゃんもやって見れば?5・6万も出せば、かなりの衣装(モノ)が買えるよ。
なんなら、わたしの衣装貸そうか?ちょっと小さいけど。」
『いい、遠慮する…。』

カナは趣味でレイヤーをやっている。
親と同居しているので、収入の大半をそっち系の衣装に注ぎ込んでいるらしい。
そんな金銭感覚で気軽に誘われても、一人暮しのビンボー人には、迷惑なだけだ。

それに、カナのお誘いに乗るとロクな目にあわない。
この仕事もそうだが、前にやった声の仕事は、もっと酷かった。
ローカルヒーローだかなんだか知らないが、安いギャラで人をコキ使いやがって…。
『(ったく、もっと羽振りよくしてくれれば、こんなバイトしなくても済んだのに…。)』
24806/52 ◆XksB4AwhxU
「なっちゃん…。だから、笑顔のお面がブツブツ言ってるのはコワイよ…。」

カナのツッコミをスルーし、カチューシャ付きのセミロング面を渡す。
有名美術工房に特注したという、このお面は誰が見ても良く出来ていると認めるだろう。

反面、出来が良過ぎて、ちょっとした傷でも目立ってしまうのが難点だ。
特徴は、中の人が喋ることを前提に、
しかも長時間被っていても負担の少ない造りになっている。

…らしいが、私は他の着ぐるみを着た事がないので、違いがまったく判らない。

「ん…しょっ…っと。』
面を手にしたカナが、ドールヘアを巻き込まないように、頭をもぐり込ませ…
『ふぅ……。えーぢちゃん!今日もお仕事ガンバローね♪』
お面を被っただけで、声のトーンが高くなった。

毎度の事ながら、この切り替えの早さが羨ましい。
こっちは、鏡を覗きながら自己暗示+自分へのご褒美を約束しないと
メイドスイッチが入らないのに…。

声の仕事もそうだが、私は役に成り切るのに時間が掛かる。
だから、朝早く着替えて意識を集中しなければ…って、

『…そー言えば、今朝のお掃除当番は?』

『くるみや君なら、もうすぐ着くって、さっき店長さんが言ってたよ。』
『もうすぐって…ったく、あのバカは、もぅ…。』
24907/52 ◆XksB4AwhxU
時計を見ると、開店時間まであと10分。
あのバカは相変わらず自分の立場と言うモノが理解出来ていないようだ…。

『あっ!えーぢちゃん。掃除なら私やったよ!』
止めようとするカナを捨て置き、廊下にある用具入れのモップを手にお店の中へ。

(まったく…、この店の従業員教育はどうなってるのかしら?)

どんな店でも下っ端バイトなら、朝一で店中を磨くくらい当たり前でしょうに…。

だいたいアイツは、浪人とか言ってる癖に勉強してる様子がまるでない。
あれは絶対プーだと思う。
人生舐めまくりで、苦労知らな過ぎのボンボンに違いない。
だから…、

「悪い、遅れた。」

などと、悪びれた様子もなく店に入って来やがる。

『ねぇ。マコト君…、』

お姉さん、キミの見た目は好きよ。
でも、悪いと言いつつ、息ひとつ切らせてないのは、人としてどーかと思うの。
それに遅れたら、まずゴメンナサイするのが筋でしょう?
この様子だと、ダメな大人になる可能性大だと思うの。
だから、辛く当るのも人生の先輩としてのアドバイスなの。
決して恨んでいるわけじゃないのよ…たぶん。
25008/52 ◆XksB4AwhxU
♂

《着ぐるみメイドカフェ・完パケ亭》
ダメオタが吹き溜まる街・秋葉原に、この夏ひっそりとオープンした超々零細メイド喫茶だ。
読んで字の如く、着ぐるみのメイドさんが軽食を運んでくれたりする、それだけの店。
叔父の胡桃谷中杜(くるみや・なかと ??歳♂)が個人経営で始めた店で
ウチ(親父)が出した資金の変わり果てた姿でもある。
このような店が、普通にやっていける秋葉原という街は、よほど度量が大きいのか、
よほど病理が深いのか…。

まぁ、絶対後者だろう。

俺的には1ヶ月で潰れると踏んでいたが、
フィギア以上の造型を誇る着ぐるみが、アニメ声で注文を受けるのは、マニア心に相当クるらしい。
それらグッと来てしまった客がリピーターとなり、キワモノ喫茶を支える大きな力となっている。

実にアリガタイ事だ。
今後の課題は、プラス料金をふんだくれるような、それっぽいサービスを創り出す事と
駅前にいる真面目なアルバイトに対し、お迎えを寄越こすくらいの優しさが欲しい。
って言うか、今すぐ欲しい。

(ったく、♯なんでこんな遠いんだよっ!)

完パケ亭は、電気街外れの僻地にある為、駅から延々と歩き続けなくてはならない。
これで掃除当番なんか周って来た日には、30分も早起きしな…、

「…そーいえば今日、掃除当番だった。…っけ?」
25109/52 ◆XksB4AwhxU
…まぁいい。お詫びのメールでも打っておけば、なんとかなるだろう。
今日は、土日でもエロゲ発売日でもない。したがって昼前に来る客など居やしないのだ。

人生に大切なのは、慣れと余裕。
あんな店で4ヶ月も働いていれば、アキバの裏通りも普通の街並に見えてくる。
道路ギリギリまで商品を並べるパーツ屋も、普通のAVが浮いて見えるエロショップも
商店街の八百屋となんら変わらない。
萌Tシャツ(♂着)やネコミミ(♂付)さえ、浅草寺のハト並。

それに、心地良い秋風に吹かれながら、おでん缶を買うくらいの余裕があれば、
開店10分前だろうが、店の中にモップを持った着ぐるみメイドさんが仁王立ちしてようが
「悪い」の一言で許して、

『♯てめぇ遅れたらまず、ゴメンナサイだろっ!!』

…くれなかった。

「まぁ待て。まずは、これでも食って落ち着け。ちょっとヌルいけど…。」
『……で?』

「牛すじも入ってる事だし…。」
『♯……。』
25210/52 ◆XksB4AwhxU
世の中、おでんで物事を誤魔化せるほど、単純ではないようだ。
その証拠にロン毛の着ぐるみさんは、物騒なモーションの後、手にしたモップを投げてきた。

「∑あ゙(危)っっっぶ!♯どこ投げてんだよっ!」

『ん~~~。みけんかな?あはっ♪』

「♯……。」(あはっ♪ぢゃねーよクソアマ...。)

微妙に素人っぽいが腐っても声優。いちいち声色を変えて来るのがムカつく。
さっきのヤンキー入った声など、客前では絶対出さない癖に…。

(ったく…、この店の従業員教育は、どぉなってんだ?)

朝の着ぐるみといえば、ウェルカムなお出迎えをするのが、正しい着ぐるみの在り方ではないのか?
もし、浦安ネズミがマウス声で罵倒しながらモップを投げ付けたら大問題になるだろうに…。

『カナが一通りやってくれたみたいだけど、そんな事気にせず、キッチリお掃除しましょーね♪』

どうも、初顔合わせ以来、俺はロン毛(池沢千夏)に恨まれている。
確かにフッ切れてない着ぐるみさんを冷めた眼で見たのは、悪かった…と思う。
初対面の相手に「仕事選べよ…」と、漏らしたのも反省すべき点かもしれない。
だからと言って、おでん缶まで取り上げるのは、人としてどーかと思う。

(キッチリ掃除させんなら、おでん返せよな…。)

          ・
          ・
          ・
25311/52 ◆XksB4AwhxU
時刻は昼過ぎ。
店内を覗けば、紙相撲に最適なテーブル席も、汚い道路しか見えない窓際席も、それなりに埋まり、

a 『おかえりなさいませ。ご主人様。』
p 『お写真ですね!かしこまりました。』

ロン毛のえーぢが新たなご主人さまを迎え入れ
セミロングのぱっけが、身体を傾げつつ、指先でスカートを広げながらの記念写真。
平日で、これだけ入れば上々だろう。
ちなみに、カメラさえ持ってくれば、メイドさん写真はタダで撮り放題だ。…が、
その分 食事代が割高になっているので、撮らない人には問題のある料金システムになっている。

「はい。オムレツバーグ上がり!誠君、後よろしく。」

そして、調理手伝いの俺は、
コック姿の叔父から出来あがった料理を受け取り、仕上げのデコレーションを施す。
パセリをさっと散らし、オムレツの上に☆着☆のケチャップ文字。
どこかのパクリに見えるが、名前も違うし、ご飯は別だから全然問題ない。
メニュー内容が非常に似通っているのも、メイド神のイタズラだろう。
25412/52 ◆XksB4AwhxU
《《《 チィーーーーン♪ 》》》

設定上、この店はご主人様の屋敷であり、主人の帰りを待つ人形のメイドさん以外誰もいない。
ムサい料理人や真面目な好青年など、中の人以上に《居ない筈》の存在だ。
従って、料理の完成を告げるベルは、雰囲気を壊さない為の必需品。

この音色が店内に響けば、受け取り口に現れたロン毛のメイドさんが、
『♯………。』
虹彩の覗き穴から、ガンを飛ばしているような優しい笑顔で、俺を見詰めたりする…。

「…メイドさん。ここの着ぐるみは、お喋りするのがウリなんだから
言いたい事があるなら、はっきり言おーね。」

ロン毛のメイドさんは、俺だけ軽装(デニム地エプロン+バンダナ)なのが、
よほど気に食わないらしい。
店に出ないで済むこのラフさが、重装人型サウナに言わせると万死に値するそうだ。
逆恨みも甚だしいし、女の子が中指を立てるのは、ボク的に感心しないな。

『ばぁ~~~~~か。』

(馬鹿?馬鹿ですか?しかも中指付きの馬鹿ですか…?)
25513/52 ◆XksB4AwhxU
(…って、♯おメェが 暑ぃのは俺の所為ぢゃねーだろっ!)

a 『オムレツバーグのご主人さまぁ。お待たせしました。』

ムカつく…。まったくもってムカつく。
どー見ても、室内温度を上げているのは、オムレツ食ってるデブの方だろーが!
ちょっとくらい、可愛い(中身)からって調子コクなよっ!

a 『…あ、はい。あとジンジャーエールですね♪すぐにお持ちいたします。』

♯あのアマ、何時かヒィヒィ言わせてやる。
こっ恥かしい萌ソングを作詞して、ソロでキュンキュン歌わせてやる。
厄介払い気味に通わされてる浪人(実質ニート)を舐めンなよコラッ?
金さえ払えば、俺だってごしゅぢんさま。
食い物染みが弱点のお肌に、うっかりナポリタンこぼしちゃうぞコンニャロー!
そんな事されたくなかったら、ちょっとは…、

『ジンジャーエール。大至急ね!』
「ボクにも、優しさを下さぃ…。」

          ・
          ・
          ・

『…ハァ?』
25614/52 ◆XksB4AwhxU
♀

着ぐるみがお面を取る時の擬音は、スポッでなくズルリだと、私は思う。
特に長いドールヘアに覆われたサウナ状態のお面の場合は。

「ふぅ~~~。」

休憩室(兼、更衣室+衣装部屋+缶詰・乾物倉庫+トイレ付簡易シャワー室)の淀んだ空気さえ、
新鮮に感じるこの開放感…。
なんだかんだ言っても、お人形から自分に戻れるこの瞬間は、たまらなく気持ちがいい。

(今日は、1回で良っか…。)

秋も深まり、お面とタイツを交換する回数もグッっと減って来た。
季節の移ろいが無いこの街で、季節の有り難さが身に染みるとは皮肉なものだ。

「取り合えず、峠は越えたかな…?」

思えば、夏場は酷かった。特にエアコンが調子悪い日なんか、4回もタイツを替えるハメになったし、
お面などは、5つ(笑顔仕様2+微笑み仕様2+リボン付おさげバージョン1)の面が
一日で一周してしまったし、
制汗剤と消臭剤を使い過ぎて気持ち悪くなったし、使わなければ使わないで汗臭いし…。

(次は銀イオン入り無香料をお願いしよ…。)
25715/52 ◆XksB4AwhxU
なんて感慨にふけっている場合じゃない。今の内に昼食を済ませてカナと交代しな…、

「………。」

まかないで作って貰ったオムライスの上には☆バーカ☆のケチャップ文字。
つね日頃の教育成果がこれとは、お姉さんとても悲しい。
君の背が高くなければ、同じ格好をさせて、同じ暑苦しさと、同じ恥かしさを味あわせて上げるのに
それが出来ないのがお姉さんホントに悲しい…。
悲しいから、次からは柄の部分で直接ブッ叩いて上げなきゃ…。

          ・
          ・
          ・

(・・・それにしても、さっきの呟きは一体なんなのかしら…?)

まかないながらも、生クリームが入った卵で作るオムライスは、やっぱり美味しい。
しかし、その味を楽しむよりアイツの言動が妙に引っ掛かった。

思えば最初の頃、お客さんと働く私達(着ぐるみ)を見る眼は極めて冷ややかだったのに
近頃は、なんだかモノ欲しそうな眼になった気がする…。

あれは、もしかして…。

【 - 続 く - 】
26016/52 ◆XksB4AwhxU
【 - アキのアキバの略 ~その2~ - 】

♂ 11月中旬某日 完パケ亭店内・掃除中

秋は深く、人肌は恋しく、我が心は虚しく…。まぁ、要するに女のコが抱きたい。

「はぁ…。」

最近、メイド達に接客されているオタ共が、何だかモノスゴく羨ましい。
季節による心境の変化なのか、オ○デン坊やに未来をもてあそばれたのか…。
とにかく、優しいメイドさんになった池沢に ご主人様と呼ばれたい。
1度だけなんて殊勝な事言わないから、1時間に60回は言って欲しい。
でも、そこまでされるとウザいだけだから『抱きしめて』の一言で許して上げよう。
その前に『ギュッと』を付ければ、なお良し…。

「・・・はぁ。」(ホンと、末期だなぁ…。)

自分でも何がしたいのか判らない。
認めたくないが、池沢演じる えーぢにすっかりやられている…。

従順に振舞う着ぐるみメイドを見ていると、癒しに似た感覚を覚えてしまい、
中で汗まみれになっている池沢を想像すると、何とも言いがたいモンモンとした気分になってしまう。

しかも、その倒錯と倒錯が混じりあって、切っても切れない摩訶不思議な倒錯趣味になりつつある…。

「(おかしい…。少なくとも夏前は、どこにでも居る極めて普通のダメ人間だったのに…。)」
26117/52 ◆XksB4AwhxU
「…くるみや君。お掃除しながらブツブツ言ってると、点滴とお喋りする人に見えて、それなりにコワイよ。」
「かっ…奈美さん、おはよ。」

背後から囁く独特な声に、身体がビクリと反応し、意識が現実に強制送還された。
確かに、物思いによる注意力散漫状態だったが、
山越が入って来た事も気付かないなんて、いよいよヤバいかもしれない…。

「悩み事?なんなら相談に乗ろうか?」
「遠慮します。」

この人はこの人で、また魅力的だし、池沢と違って人当たりも良い。
しかし、なんと言うか…。そこはかとなく漂うキャッチ臭が…スゴく気になる。
うっかり着いて行ったら、微妙な価値の絵を紹介されそうな地雷臭がするのだ。
妙にコスプレ話を振ってくる辺り、非常に怪しい。

「そう?残念…。一緒にイベント行きたかったのになぁ~。」
「………。」(答え決まってるのか?)

「なっちゃんは?来てる?」
「楽屋に篭ってブツブツ言ってます。」

彼女達の着替える場所を、俺は楽屋と呼んでいる。
狭いながらも多目的に使用出来る万能部屋で、なんとユニットバス?まで備わっている。

…が、俺だけ使用厳禁なうえ、掃除もしたことがないでバス室は未だに秘密のエリアだ。
休憩時間以外にメイドさんがいなくなったら、このトイレに居ると思って間違いないだろう。

ちなみに 《する》時は、全部脱ぐのか聞いたら、オリーブオイルの瓶を投げ付けられた。
きっと全身タイツにも、男の子にはナイショのエリアがあるに違いない…。
26218/52 ◆XksB4AwhxU
「窓は?終わった?」
「まだっス。」

「じゃ、私も手伝うね。」
「スンマセン。」

やはり山越は優しい。大人の雰囲気を帯びた お姉さん的優しさだ。
惜しむらくは、声がウザ明る過ぎなのと、おっぱい無さ過ぎの2点。
これで池沢並の声と胸を兼ね備えつつ、おかしな勧誘さえしなければ言う事ないのに…。

と言うか、そもそも池沢が、普段から優しさに満ち溢れていれば こんな悩みなど…、

(まぁ…、ここでウダウダ悩んでいても仕方ないか…。)

          ・
          ・
          ・
26319/52 ◆XksB4AwhxU
朝の池沢は楽屋に篭って、切ない念仏を唱えるのが日課だ。
断っておくがギャルゲーにアリがちな、コザカシイ切なさでは無い。
あっちが桜舞い散る切なさなら、こっちは枯れススキなびく切なさだ。

そして、その切なさを 実際目の当たりにすると…、

『きょうだけはきぐるみ…。きょうだけはきぐるみ…。
いまだけはめいど…。いまだけはめいど…。いまだけはきぐるみのめいどさん。
お金が入ったら100円ショップでお買い物。お金が入ったら100円ショップで好きなだけお買い物。』

「………。」(・・・こいつ、スカラー波が怖くて着ぐるみ着てる訳…じゃないよな…?)

部屋の中には、パイプ椅子に座ってブツブツ呟くアニメ顔のメイドが1人。

メルヘンでゴシックなヒト入り人形が、「自分は着ぐるみなんだ」と言い続けるさまは、
パラノイアな世界にしか見えず、
声掛けを躊躇わせるのに十分なインパクトを放っていた…。

(…って、引いてる場合じゃない…。)
26420/52 ◆XksB4AwhxU
「池沢。貧乏は憎かろうが、鏡に相談しても解決しないぞ。」
『♯………。』

気を取り直して挨拶してみたが、ちょっとエスプリ不足だったかもしれない。
ビンボー思念は消えたものの、部屋の空気まで凍った気がする…。

『♯ナニ…?。』

「いや、モップを片しに来たら、メイドさんのうわ言が聞こえたから…つい…。」
流石は声優。
お面は笑っていても、中身は怒ってるのが一発で判った。

『…マコト君。きみには色々言いたい事があるけど、まず目上の人を呼び捨てにするのは止めようね。
あと、この部屋に入る時は必ずノックする事。これは前に説明したよね…。』

「いや、ノックで邪魔しちゃ悪いだろ?なんか、集中してたみたいだし。」
『♯………。』

(それにしても…???やっぱり普通だ…?)

たとえ着ぐるみ姿でも素の池沢の時は、おかしな感情が起こらない。
これは、つまり…

『♯…結局なにが言いたいワケ?』
「普段着の池沢には、汗と優しさが足りないってコトだ…。」(???で、いいのか?)
26521/52 ◆XksB4AwhxU
          ・
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          ・

「ぬ゙ぅぅぅぅ…。」(頭痛い。まぢに痛い…。)

可愛い後輩を、缶詰で殴りやがる先輩というのは、職場的にどーかと思う。
最近は遅刻する度にモップで殴るようになったし…。つくづく、暴力好きな女だ。

「誠君。オデコなんかさすってないで、ちゃんとパスタを見る!」
「…ぅぃっす。」

店長は店長で、職場内暴力には見て見ぬフリだし。
だいたいこの店。保健所の許可 ちゃんと取ってんのか?

『…お悩みですね…。』
「…全然、お悩みじゃないです。」

受け取り口には、カウンセラー気取りの着ぐるみが覗いてるし。
でも、どんな理屈でコスチュームプレイに行き着くのかは、なんだか気になる…。

『おかえりまさいませご主人様。はい、お二人様ですね♪』

暴力行為を働いた、加害者は何事もなかったかのように接客してやがるし。
26622/52 ◆XksB4AwhxU
しかし思うのだが、こんな狭い所に「おかえりなさい」言うのは、客に対する侮辱ではないだろうか?
『テメェの住まいなんざ、どーせこんくらいの猫びたいサイズだろ?Ha!(嘲笑)』
と、言われてる気がするのは、俺の心が歪んでいる所為か?

a 『こちらメニューに、なりまぁーす♪』

それにしても…、

a 『アイスティにカフェオレですね。かしこまりました。』

やっぱり変だ。

a 『∑たいへんたいへん!だいじょーぶですかぁ?お洋服は濡れてませんかぁ?』


楽屋では普通に見れたのに、店内で働く姿には、何故か惹かれる…。
ゴム手袋をはめながらアイスティを拭き取る姿など、癒しを通り越してエ0スすら感じてしまう…。

それでいて、着ぐるみそのモノに惹かれている訳では無い。

これは、つまり…

「珈琲と牛乳はNGでも、コーヒーぎゅーにゅーならオッケ。…って、コトか?」
「♯何でもいいから、自分の世界に入ってねぇでパスタを上げろ…。」
26723/52 ◆XksB4AwhxU
♀

「………。」

本日のまかない料理の上には☆ゴメン☆のケチャップ文字。

(結構、可愛いトコはあるんだけどねぇ…。)

そもそも何が言いたかったのか、さっぱり判らなのに謝られても…。それに、
☆コスプレは嫌☆
カナの方に書いてあるメッセージ(しかも、明朝体)の方がスゴク気になる…。って、

(あいつ、この分野の作業だけ異様に上達してない…?)

『ふぃ~~~。おつかれぇ~~~。』
「あれ?カナ。お店は?」
『お客さん途切れたから、休憩していいって…。ハァ~、早く新しいコ入んないかなぁ~。』

このお店は、開店当初から新たなメイド(操演)さんを募集しているが、未だに応募がない。
時給は良いのに、ここまで応募がないのは、色々な意味でコワイと思われてるのだろう…。

『あぁ~、またオムライスかぁ…。』
「…違うみたい。」
ンと☆の間をスプーンで、さっくり切り離すと、
今日のはご飯の変わりに、ふにゃふにゃパスタが入っていた。
(???新メニュー?)
26824/52 ◆XksB4AwhxU
まぁいい。そんな事より…。

「ねぇ、あのバカの事なんだけど…。」
『くるみや君?最近、挙動不審に磨きがかかってるね。』
「やっぱり、カナもそう思う?」
『うん。だって眼が…逝っちゃってる…もん…。なっちゃん限定で♪」

ぱっけのお面が外れ、汗のにじむ顔が現れると同時にニヤリと笑った。
どうやら、あのバカの興味対象は、私自身と勘違いしているようだ。

「ちょっと…。変なこと言わないでよ…。」
「でも、お店にいる時は えーぢちゃんの方ばっかり見てるし、なっちゃんに気があるのは間違いないよ。
それに私のアプローチには、イマイチ反応しないし…。」

そう言いながらカナは、自分のオムパスタ?を指差した。

(アプローチって…。こいつには、コスプレしかないんか?)

「で?なっちゃんは、どーなの?くるみや君って鉄板でバカだけど、
ルックスは良いし、親は小金持ちみたいだし、付き合ってみて損はないんじゃない?」

「そんなこと言われても…。」
確かに見た目は合格点だけど、バカだしガキだし社会常識は欠如してるし…。

「………。」(ぱっけには、反応してないのか…。)
これは、私の事が好きって解釈でいいのかしら…?
26925/52 ◆XksB4AwhxU
【 - アキ?のアキバの略 ~その3~ - 】

♂ 12月上旬某日 完パケ亭店内・テンパリ中

冬は近く、人肌は遠く、我が心は迷い…。まぁ、要するに病気が悪化している…。
認めたくないが、悪化の一途を辿っている。

「はぁ…。」

今までの異常な心理状態を、俺なりに分析すると、
・池沢の場合、嫌々ながらも着ぐるみとして振舞わなければならない状況に加虐的な興奮を覚えた。
・山越は、その状況を楽しんでいる風に見えるので、何も感じない。

これなら、一般的でない職場で働く内に、変化球気味のS趣味が出ただけと納得出来る。
それに えーぢに惹かれたのも、普段はそっけない池沢が見せる意外な一面に惹かれたに過ぎない。
要するに単なる気の迷いということだ。…が、

最近はメイド達に接客されているオタ共に、嫉妬を通り越して敵意すら感じてしまい、
えーぢの何気ない仕草にすらエ0スを感じる始末…。

ハッキリ言うと「己の頭がおかしかろうが、メイドが素だろうがキャラだろうが、もぅナンだって良いや。」
と、思い始めている…。
27026/52 ◆XksB4AwhxU
「なぁ池沢。今の俺ってなんだろう?」

『ストーカー。』

池沢は、今日もご機嫌ナナメの様だ。
鏡に向かったまま振り向きもせず、情け容赦のない言葉を浴びせて来る。
確かに、役作りの最中に押しかけるのは失礼かもしれない。

だが、この気持ちを、どぉ打ち明けたら良いのやら…。

開き直ったつもりでも、己を曝け出す勇気は起こらず…。
それでいて諦めることも適わず、邪険にされながらもダラダラ通い続けてしまう悪循環。
そんな中、彼氏の有無を確認出来たのが唯一の収穫だった。


「突然ですまないが、俺をごしゅぢんさまに見立てて、サービス向上に向けた練習をしないか?」
『ばぁ~~~か。』

「…着ぐるみを着てると心がピュアになって、近くの人をハグりたくなるお年頃?」
『ばぁ~~~か。ばぁ~~~か。』

「優しさがほしぃ…。」
『しね♪』
27127/52 ◆XksB4AwhxU
♀

(こりゃ…、いよいよシャレにならなぃゎ…。)

ここんトコ、連日のように押しかけて来る挙動不審バカを見て私は確信した。
コイツは完全に逝っている。
しかも、テンパり過ぎて自分でも何を言ってるのか判らない様子だった。

「アノ...。」
『うるさいだまれ。』(♯そんな眼でこっちを見るなっ!)

私だって、こんな店で働いていれば、ふぇちぃ眼で見られてる事くらい百も承知だ。

その視線は、決してココロヨイものではないが、
極端に露出さてのサービスよりは、極端に隠してのサービスの方が精神的に楽だし、
時給の良さには、本当に助けてもらってる。
その点については、えーぢというキャラクターになれた事を感謝してると言っていい…。

けど、プライベートで着ぐるむなんて、まっぴら御免。

私が、ご主人様の従順な人形でいるのは、舞台(店)に上がっている時だけだ。
店内から一歩でも出れば、どんな格好だろうと私は私。それ以外の何者でもない。

それに、私にだって女としてのプライドがある。
何が悲しくて、あの時のお相手まで、生きた等身大フィギュアをやらにゃならんのだ。
27228/52 ◆XksB4AwhxU
「………。」

(だから、そんなモノ欲しそうな眼を鏡に写すな!捨てられた犬の眼で私を見るな!)

「…ごめん。」

(マジに謝るな!急に素直になるな!こっちに変な罪悪感を持たせるな!)

性質(タチ)の悪い事に、このバカは素直になった途端可愛く見える。
厄介な奴だ…。
バカでガキでヘタレで可愛いなんて、心がざわつくに決まっている…。
厄介な奴だ。本当に…。

          ・
          ・
          ・

『はぁ~~~っ。』(ちょっとくらい憐れんでやるか…。)

【 - 続 く - 】
27429/52 ◆XksB4AwhxU
【 - いちにちみつげつ(予定) - 】
♂

狐につままれるとは、正にこの事だろう。
池沢に教えられたアパートを見付けても、今だに実感が湧かないし
正直、騙されてるんじゃないかと警戒してしまう。

『今度の休みの日ならメイド姿で付き合ってあげる。』

もぅ、何度この言葉を心の中で反芻した事か…。
あの日あの時あの楽屋で、池沢が長い溜息の後口にした信じられない言葉。

そしてその言葉を胸に、
俺は今、特徴のカケラも無い平平凡凡なアパートの前にいる…。

(2階向って左端の部屋…。2階左端の部屋…。)

ここもバブルに乗ってポコポコ建てちゃったアパートの1つなのだろう。
変にきれいな所と、異様に寂びれている所が混ざり合って
リフォームしたいのか 取り壊したいのか、どうにも測りかねるアパートだった。

(ここ…か。)

目的の場所にたどり着くと同時に、微かな迷いが心をよぎる。
それを振り払うかのように、生唾を飲み込み、手のひらの汗をズボンで拭き、
いま一度場所が間違っていないかを確認し…。

そして、騙されていない事を祈りつつ、これまた特徴のないクリーム色のドアをノックした。
27530/52 ◆XksB4AwhxU
「ぉふぁょ…。」
「………。」

しばらくして開け放たれた扉には、生活臭全開のトレーナー女が1人。

上を見れば、だるそうなアクビ顔に寝起きのような乱れ髪。
下を見れば、縞しまソックスに突っ掛けのサンダル…。

俺の中では、ウェルカムなお出迎え(ハグ付き)が決定していただけに
この現実は到底受け入れ難く、うっかりミスで部屋を間違えたと信じたい。

「………。」
「どうしたの?入りなよ。」

取り合えず目をつぶってみても、現実は変わってくれなかった…。

「池沢…。期待してた俺も悪いけど、今の自分に何らかの疑問を感じないか?」

「???なにが?」
「………。」(なにがとホザキますか…あなたは…。)

ここまでアバウトなのは、俺が《男》と見られていない証拠だろうか?
着ぐるみは無理でも、男が来るならメイクくらいしろと…。
取り合えず、その寝癖と目ヤニを何とかしろと言いたい…。

          ・
          ・
          ・
27631/52 ◆XksB4AwhxU
(女の子の部屋に来たのに、この切なさはナンだろう…。)

池沢の部屋は一言でいうと、チープな部屋だった…。

安物雑貨やアイデア番組?によく出てくる、ゴミとゴミをくっ付けてカラフルにした
お洒落ゴミが、棚だの壁だのを飾り立てているのだが、正直見ててイタい。

「なんか…細々としてて、ステキな部屋だよね。」
「でしょ♪」

しかも、意味不明のお世辞すら、ポジティブに受け取られる始末…。
100円雑貨を並べればステキ空間と思える感性は、如何なものかと思う。

「今、コーヒー用意するから適当に座ってて♪」
「おかまいなく…。」

          ・
          ・
          ・
27732/52 ◆XksB4AwhxU
「近所にスーパーみたいなドラッグストアがあって、これはそっちで買ったの。
このサイズでたったの298円!結構イケルでしょ?」
「ゥ゙~~~ン…。」

部屋を褒められた事に気を良くした池沢は、特売とディスカウントと100円ショップの
講義を始めてしまい、その授業は小一時間経っても終わらなかった。

俺としては、アッチ方向に話を持って行きたいのだが、
一方的に喋り捲る池沢に圧され、糞不味く安不味い珈琲をすすりながら黙って聞く他なく…。

「おいしい?」
「コクと深みが、食道をタダレさせる感じかな…。」
「よかった…♪」
「………。」(いいのか…?)

何が良いのかは判らないが、頬杖を付きながらニッコリと笑う池沢に、しばし見惚れてしまう。
笑顔一つで、寝癖顔をカバーするとは、それだけ土台が良い証拠だろう。

「あっそうだ!前に買った外国のポテトチップあるから食べてよ。
安いのは良いんだけど、ただ油がちょっとね…。もしかしたらジンマシン出るかもしれないけど…。」
「いや、いい…。」

こんなマッタリとした時間も良いが、そろそろ本題への足掛かりを探らなくては。
それに着ぐるみらしき物体が、見当たらないのも気になる…。

「遠慮しないで♪10枚くらいなら、気持ち悪くなるだけで済むから。」
「ホントにいいって。それより特売話もいいけど、そろそろ着

「そんなに着ぐるみとしたい?」
27833/52 ◆XksB4AwhxU
が……。え゙!?」

その言葉が耳に届いた瞬間、まず己の耳を疑い…。
次に顔の表面温度が急上昇し、脳ミソが真っ白に塗り潰され…、

最後にマッタリとしていた部屋の空気が消し飛んでいた。

「ナ、にヲ言ってるンだお前ハ?俺は只、今後のサービス向上に向けたお話し合いを…。」
「えーぢちゃんとしたいの?私としたいの?どっち?」

冗談にするには空気が重く…。肝心の舌はまるで回らず…。
池沢の完璧な不意打ちに見っとも無くうろたえ、マグカップを持つ手が小刻みに震える…。

「…どっち?」
「…判らない。店の奴じゃないとダメだし、中身は絶対にお前じゃないとダメだと思う…。」

その様子が全てをモノ語ってしまい、もはや誤魔化しようが無かった…。

「してもいいけど私は私だから。こんな時まで、えーぢになり切るつもりは無いからね。」

うな垂れる俺に、深い溜息と その言葉を残し、池沢は入り口付近の扉に入っていった。
俺は、その意味を測りかね…、しかしそれを問いただす勇気は無く…。

結局、逃げだす事も追いかける事も出来ず、
己のブザマさとミジメさとバカさ加減と情けなさを呪いながら、部屋の中で畏まるしかなかった。
27934/52 ◆XksB4AwhxU
(一体ナニが、どうなっているんだ?)

『私だって恥かしいんだからね…。』

入り口から数歩。バスルームらしき扉が開き、中から着ぐるみメイド化した池沢が
現れると同時に、正座したままの俺を抱きしめて来た。
明るく元気なお店声ではなく、柔らかく温かい声と共に、
胸の温もりが俺の頬に伝わっている…のだが、実感がまるで湧かない。

この状況になっても、ゼロ距離にある現実が信じられなかった。

『今日は、どうするつもりだったの?まさか本当にお茶を飲みに来ただけじゃないでしょ?』
「いや、妄想ばっかり膨らんだけど、結局そっちの流れに話を持っていって…。あわよくば…でしか。」
『はぁ…。ホントにバカなんだから…』
「…ごめん。」

謝った途端、抱きしめる力が強くなった。どうやら俺は同情に値するバカらしい。
情けない話だが今の俺にとって、この《承知の上での憐れみ》は、涙が出そうなくらい有り難く…。

『持って来るの大変だったんだからね。バレないように少しづつ持ち帰って…。
タイツなんか昨日着てた奴だから、ちょっとくらい臭っても我慢してよね』
「…うん。」

今にして思えば顔合わせの時点で、俺は池沢にやられていたのかもしれない。
でないと、バックレもせず、あの店に通い続けた理由が思い浮かばない…。
28035/52 ◆XksB4AwhxU
面にキスしても仕様が無いので、仕方なく首元にキスをする。
池沢の言う通りタイツからは女の子の香りに混じって、汗の臭いが鼻をくすぐった。

『お面被る前にキスしとけば、良かったね…。』
「今、外してするのはダメかな…?」
『だぁ~め。着ぐるみとしたがる人なんかにして上げない。』

虹彩の黒い部分にある覗き穴に、イタズラっぽく笑う池沢の目がちょっとだけ見えた。
身体の温もりと柔らかさ。それに篭った声と
わずかに垣間見える生身の部分に気持ちが高ぶってゆく。

「じゃぁ、もう一度…。」
今度は身体を抱き起こし、顎の辺りまで無理矢理顔を突っ込む。
面を被った頭が大きく仰け反り、面と顎の隙間から池沢の吐息が聞こえて来る。

「池沢…。着ぐるみになってる時ってどんな気持ち?」
『わかんない…。自分から着たいなんて思った事ないし…。暑くて臭くて息苦しいだけかな…。
でも、今はちょっと気持ちいい…。』
エプロンドレス越しに膨らむ胸を優しく揉むと、面の中から漏れてくる呼吸音が激しさを増し
池沢は、恥かしそうに身悶えた。
28136/52 ◆XksB4AwhxU
『…マコトはどんな気分?』
「俺もよくわからない…。なんて言うか点字を読むみたいに、着ぐるみの感触から
池沢を読み取る度に興奮するっていうか…。今はエプロン越しの乳首が凄くいい…。」

『ばか…。それなら普通にしてよ…。』

これだけ近い距離でも、えーぢの造型は魅力を失わず
恥らう池沢の仕草と合間って、強烈な愛くるしさを放っていた。
その様がいとおしく、そして何より 君付けで無くなった事が嬉しい。

「いや、池沢に魅力がないんじゃなくて…性的に視力が落ちたというか…。なんて言うか・・・その、」
『一言で言うと「ヘ0タイになりました。」と?』
「それは一言過ぎ…。」

冗談にしてもその一言は、やはりキツイ…。
高ぶっていた気持ちが秒刻みで萎えてゆき、ゴムぐるみのペ0スも見る見る頭(コウベ)を垂れて行く。

(これは…、やば…イ…。)

このまま流れでいと、中途半端に果てる気がする…。
ふにゃり気味のまま白濁ゲロを吐くさまが、考えるまでもなく脳裏に浮かんでくる…。
男として、それだけは避けたい…。
28237/52 ◆XksB4AwhxU
「…ぃけ沢って、キャラクターショーとかやってた?仕草がプロっぽく見えるんだけど。」

萎えたことを悟られないように、以前から思っていた疑問を投げ掛けてみた。
愛撫中には不自然な話題だが、ふにゃチンを誤魔化せれば何だっていい。

『中身の経験は無いよ。でも、司会ならウ0トラ0ンのショーを2回ほど。』
「ウ0トラ0ン?客前で怪獣と戦ったりするアレ?」
『うん。あの人達ってTVの中でもお喋りしないでしょ?
だから、私が間を持たせたり、アドリブでフォローしたりで…大変だったなぁ。』

面の中から、可愛らしい笑い声が漏れる。
その声が笑った面とマッチして、着ぐるみが本当に笑っているかの様に見えた。

(ウ0トラと言えば、椎名○の小説にウ0トラ0ンが脱げなくなる話あったな…。)

確か爺さん向けの娯楽として、怪獣とガチンコで格闘したり
そっち系のヒロインが別の意味で怪獣に襲われたりする未来のショー話が。

「…ウチの店って大人向けのキャラクターショーみたいなモンかな?」

不意にそんな事を考えてしまう。
何せ、成人をターゲットにした着ぐるみサービス?などウチくらいしか思い出せない。
28338/52 ◆XksB4AwhxU
『じゃあ今度、私とカナが怪獣と戦うショータイムでも作ろっか?
怪獣役にピッタリな人材もいることだし。』

面がわずかに起き上がり、覗き穴に浮かぶ瞳が、俺の顔をジッと見詰める。

「あんな狭い場所でショーなんかやったら、コーヒー飲んでる客に思いっきり蹴りが入るぞ…。」
『…ンン~~~ん・・・。そうなったら「ゴメンね☆」で、済まないかな?』

「済まないし、民事沙汰になるから止めとけ…。」
『そぉ?ざんねんだなぁ…。』

なんか…本気で残念そうだ…。
ひょっとして、池沢は司会よりもウ0トラ0ンをやりたかったのではないだろうか?
殴るの好きそうだし…。

『ホント…。ざんねん。』

…にしても、あの小説みたいにメイド衣装が脱げなくなったら池沢はどーするだろう?

あの話は、人目を避けて山で暮らす、みたいな感じで終わってたけど
アニメ顔のメイドが山篭りって似合わないしな…。この場合、閉園した遊園地の方が似合うか。
夕暮れの廃遊園地に一人寂しく佇んでたら、抱きしめたくなるような哀愁漂わせそうだし…。
28439/52 ◆XksB4AwhxU
そこで、色あせたメリーゴーランドに腰掛けて、悲しそうにうつむいてたり
錆だらけの観覧車のゴンドラで、なんとかお面を取ろうともがいてたり
ひびだらけのミラーハウスで、自分の姿を見ながら、しくしく泣いてたり
自棄になって、落ち葉だらけのステージで司会なんか始めたり
自棄ついでに1人キャラショーなんか始めて、虚しさのあまり激しく落ち込んだり…、

          ・
          ・
          ・

「………。」(これは…。ゑスゑムちっくな萌ぇだな…。)

『???どうしたの?急に黙りこんで。』
「ぃ、いや、何でもない。何でもないんだ…。」

池沢に歪んだ欲望を見透かされた気がして、思わずキョドってしまう…。
だが、先程のダメージから心身共に回復した今、
このキョドりは、余計な思考をリセットさせ、俺の頭を本来のエ0モードに戻してくれた。
28540/52 ◆XksB4AwhxU
『…?』

(思わず話し込んだけど、場の空気は和んだから良しとしよう…。)
それに今の雰囲気なら、歪んだエゴを剥き出しにしても、池沢はきっと許してくれる…と思う…。

「じゃぁ、そろそろ・・・。」

俺のしてる事は、うまゐ棒をド○えもん(パチ)ごと食べるようなモノだ。
どんなに言い繕っても、マトモではないし、
許してもらった所で、池沢の存在を踏みにじっている事実に変わりは無い…。

だがしかしっ!

「いくよっ!!」(それでも俺は、開き直るっ!)

突然、真剣(まじ)に迫られた所為か、メイドさんはビクリと身体を強張らせた。
無駄に笑顔なお面が微かに怯え、悲鳴の代わりに息を呑む音が漏れる。
そんな様子を眺めながら、スカートとペチコートを一気に捲り上げ…、そして・・・。

(いよいよキタ…。)

真っ白なソレを見た途端、限界を越えた限界が身体を打ち震わす。

心臓が跳ね暴れ、血潮は激流となり、脳みそは沸騰し、手は小刻みに震え、
一般常識人を気取る理性が 「後悔スッカラ止メトケ」 と忠告する・・・。
28641/52 ◆XksB4AwhxU
それでも、袖の膨らみと腰のリボンを台無しにしながら、
仰向けで待つメイドさんを前に、何を躊躇う必要があろうか?

オーバーニーソックスに包まれた細い脚も、肌タイツに覆われた太モモも、
エプロンドレスを膨らませる推定85±2の胸も、感動的に柔らかくそして温かい。
後は、メイド衣装のいちパーツである、見せパンツをずり降ろし本懐を遂げるのみ…。

「馬鹿な事に付き合わせてホントごめんっ!」

常軌を逸した我が侭を謝りながら、タイツごと股に食い込んでいる
小癪な布切れを、一気にずり降ろす。

そして、レースまみれの純白パンツが無くなったエリアには、真っ更な肌色の…。

          ・
          ・
          ・

「(・・・ん゙???)…何故に真っさら?」
『うん。』

「『うん』って……?それにタイツの中に、本物の下着が透けてるんだけど…?」
『ゴメンね…。やっぱり着ぐるみでエッチなんて耐えられないから…。後は自分でどーにかして。』

「∑ゔそっ!!」

【 - 続 く - 】
29242/52 ◆XksB4AwhxU
【 - 部屋と つま先と ワタシ - 】
♂

どんな結末だろうとコトが済めば、理性が戻り、常識が出張り、とーぜん後悔も沸き起こる。
気分が最高潮に達した瞬間、梯子を外されてもそれは同じだ。

しかし、どうせ後悔するなら本懐を遂げる事で後悔したい…。

          ・
          ・
          ・

『ほぉ~れほれほれ、自分のしたがってた事の感想を言ってごらん。』
「…………。」(死にたい…。)

そんな、ミジメで情けなくて凹むしかない俺の隣には、
上半身を起しながら、猛然と追い討ちをかける着ぐるみさんが1人…。

バラエティー豊かな声が、心の傷をほじくり返し、
生暖かいつま先が、左の頬っぺをほじくり回す。

しかし、覚悟不足による常識のリバウンドで、激しく自己嫌悪中の俺には、
その足を撥ね退ける気力すらない…。
29343/52 ◆XksB4AwhxU
『マコト君っ。やる事やっちゃった感想を おねーさんに聞かせてネッ!お願いっ♪』
「…………。」

朝の役作りに意味などあるのだろうか?
メイド仕様の時よりも活き活きとしてる声に、そんな疑問がよぎった…。

(しかも、なんでコイツはトラウマにさせる気満々なんだ…?)

『もしもぉ~し…?
聞こえてますかぁ~?着ぐるみさんですよぉ~。マコト君の大好きな着ぐるみさんですよぉ~。』
「…………。」

『馬鹿な事に付き合わされて、おっぱいモミモミされた着ぐるみのメイドさんですよぉ~。』
「………。」

『くんくん。メイドさんの足の臭いはたまらないなぁ~。これだけでご飯3杯はいけるよ僕ぁ。』
「♯……。」


『クルミヤ君。元気だして!ちょっと擦ったら出ちゃったからって、負けちゃダメ。』

「♯それを...言うなっっっっ!!!!それに断りも無く掴むなっ!握るなっ!
大体、タイツのまま始めるから、秘密の便利穴があると勘違いしただろーがっ!!!!」
29444/52 ◆XksB4AwhxU
『あっ。反応した…。』
「♯……。」

絶賛自己嫌悪中なれど、それだけは聞き捨てならず…。

人の鼻をいじくる 微かに香ばしいつま先をはたき落し、
俺は、純粋無垢なピュアボーイにトンでもない事をしでかしてくれたアホ女を睨みつけた。

『そんなに怒らないで。ちょっとしたお茶目じゃない♪』
「♯お茶目で済むかボケ!人のチ0コを弄びやがって…。俺は捕まった鮭かっ!」

『だって…、マコトったらオロオロしちゃって…。見てられなかったんだモン…。』

グーにした手を口元にあて、イヤンイヤンと身をよじる着ぐるみ女。
そのスッ呆けた声が、確信犯である事を告げ
こーいう時の声の才は、癇に障るものだと実感する…。

「♯ある筈の受け入れ先が、まったく見当たらないんですよ、千夏サン…。
こんな時ボクは、どーすれば良いのですか?チ0コを股に擦りつければ良かったのですか?」

『別に床でもいいよ。』
「♯……。」(ぅわ、ムカツク…。)
29545/52 ◆XksB4AwhxU
『それに、すぐ終わっちゃったのは、私の所為じゃ無いし…。』
「だから…、♯それを言うなっ!!あれは焦ったからであって、本来の俺じゃないっ!」

『………。』
「………。」(…ハズだ。)

『………。』
「………。」

『さて…と。マコトも気が済んだみたいだし 馬鹿なお遊びはこれくらいにして、カニ玉でも作ろーか?
今日は卵が59円だし。』
「∑済んでないっ!済んでませんっ!済んでないんです…ぜんぜん…。」

『………。』
「………。」

「…そんな訳で、裸エプロン(ドレス)で結構ですから やらせて下さいっ。どーか…。お願い…。」

このチャンスを逃がしたくはなかった。
未練が自己嫌悪を吹き飛ばし、やりたいだけの動物に戻った俺は、
恥をかなぐり捨て、全身全霊・生まれて初めての土下座を敢行してみた。

これ以上ない前傾姿勢に、これ以上ない脚の折りたたみ。
お凸は、床に張り付いたまま動かず、
全身から発せられる哀愁オーラは、見る者の琴線をビョンビョン弾きまくるに違いない。

勿論、池沢とて例外ではなく、余裕をかましていた心が大きく揺さぶられたようだ。
29646/52 ◆XksB4AwhxU
          ・
          ・
          ・

『・・・そんな真似されたら・・・あたしだって・・・、』

土下座開始から数分後。
お互い沈黙したまま秒針音だけが響く部屋の中で、不意にそんな言葉を呟きながら
池沢は、ゆっくりと立ち上がった。

微かに震えるその声が、俺に勝利を予感させ、出したばかりの海綿体に静脈血が再集結してゆく。
若いとはいえ、鈍痛と疲労でヘタッているモノを無理矢理回復させるのはカナリ辛い。
だが、それを乗り越えてこそ漢(オトコ)。

裸エプロン(ドレス)の単語も、回復を早める魔法の言葉となるが、
やはりタイツに覆われた太股と、乳首の感触を思い出す方が効果的だった。

『ガマン出来る筈ないじゃない・・・。そんな事するマコトが悪いんだからね・・・・。』

そして股間が回復の兆しを見せ、ガマンの意味を思いっきり勘違いした

刹那・・・。

『♯そんなにマOコが恋しいのかよっ!!こォのソーOー言い訳野郎っ!』

「∑エ゙ッッッ!?・・・ウゴッ(痛っ)!!」
29747/52 ◆XksB4AwhxU
上げ様とした頭の上に池沢の右足がドッカリと落とされ、お凸がフローリングに豪快なパチキを食らわす。

その出来事は、あまりにも突然過ぎたし、
今まで味わったことのない雰囲気に、何が起こっているのかまったく理解出来なかった。

「∑いでっ!待て池沢っ!本気で痛いっ!」

正に豹変したとしか言い様のない池沢が、右足を乗せたまま俺の頭をグリグリと踏みつけ、

『♯また、お姉さんの事 呼び捨てにしてっ!なんて悪い子なのっ!?悪い子っ!悪い子っ!悪い子っ!』
「い゙っ!ばっ…バカやめろっ!まじ痛っ!」

続けざま「悪い子」の声にあわせて、オーバーニーソのスタンプが容赦なく降り注いだ。
それは、何時もの冗談とは明かにかけ離れており、狂気の入り混じった本気の声だった…。

『はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…。』

この後に及んでも、まだ冗談だと信じたい俺は、逃げもせず痛みに耐え続けたが、
何時まで経っても終わる気配のない、蹴りと踏みにじりと罵倒。
そして、池沢の異常過ぎる感情の高ぶりに、前々から懸念していたことが確信へと変わった…。

「・・・ぃ゙、ぃけざわ…。お前って、ガッチガチの さでぃす∑痛゙っ!!」

『♯お前の所為だっ、お前の!責任取れ、このヘタレ虫っ!』
29848/52 ◆XksB4AwhxU
【 - 彼女は意地でも ご主人様とは呼んでくれない訳でして… - 】

♂ 12月26日 ボロアパート2階・デート?中

クリスマスは去り、人肌はMyタイツで、我が心は なんだか物足りなく…。
まぁ、要するに 着ぐるみには成ってくれても、メイドには成ってくれない…。

(はぁ…。)

「やっぱり、バターでないクリームは最高よね♪何て言うかなぁ。幸せの味…。みたいな?そー思わない?」
「バターって…。そんなもん食った事ないぞ。」

薄っぺらな壁のお陰で天然冷蔵庫と化しているアパートには、ホールサイズケーキ(9号)が6箱。

その隣には、多くのオタを釣り上げたフカフカでモコモコな ミニスカサンタ服(ポンポン付き)が、
ハンガーに吊られながら壁を飾り、笑顔一杯のお面は床に置かれたまま、こちらを見て笑っている。

この場違いなケーキ群は、クリスマス期間中 店で行われた 《完全パッケーキ・パーティ》 の残り物で
本来ならサプライズ抽選会の景品だったものだ。

しかし、ショートケーキしか出ないケーキバイキングに、この景品は実に評判が悪く、
誰も受け取らなかった為、チープ部屋行きの末路をたどってしまった。
29949/52 ◆XksB4AwhxU
「バタークリームの味を知らないないなんて、ホントにボンボンなのね。マコトの癖に生意気だわ。」
「生クリーム舐めてれば幸せなんて、生粋の貧乏育ちだな。池沢らし過ぎて鼻で笑っちゃうぞ。」

「………。」
「………。」

「…ケーキって美味いよな…。」
「…美味しいわよね…。」

出会う事により、倒錯趣味が陽性になってしまったのは、池沢も同じだった。
話によると、俺と接する内に心の病みが進行し、この前の土下座で一気に弾けてしまったという。

それでもあれは、同情とお茶目の果てに起きた偶発的な事故らしいが、真偽の程は不明だ。
というか、確かめ様もないので、今更どうでもいい。

兎に角、今は心の歪んだ者同士。
己の趣味を曝け出せる唯一無二のパートナーとして、このように仲睦まじく付き合っている。

「池沢。あのさ、ケーキも良いけど…、」
「着ぐるんで欲しいなら、まず先に誠意を見せるコト。ただし、えーぢに成るのだけはお断り。」
「………。」

…ように見えるが、
そこは《彼女をご奉仕大好きメイドにしたい男》と《彼氏を痛いの大好きドレイにしたい女》の吉カップル。

ジャンルは違えど、ワガママ自己中なのは一緒なので、
水面下では相手を自分色に染め様と、激しい鍔迫り合いが続いている…。
30050/52 ◆XksB4AwhxU
「俺…痛いのとか恥かしいのはイヤなんだけど…。」
「私も暑いのとか息苦しいのはイヤよ♪」

「…この部屋、息白いから暑くないんじゃないか…?」
「この部屋、息白いから痛くないんじゃない♪」

「………。」(それは逆に痛いダロ…。)

口惜しい事に、着ぐるみの持ち出しは、池沢に頼るしかない。
この借りは非常に大きく、常にイニシアチブを譲るしかないのが現状だ。

「・・・じゃんけん3回勝負で1勝する毎に10分。
ただし、全勝しても相手の10分間は保証する条件でどうだ…?あとヒーター点けてくれ…。」

「1勝毎にマコトは10分、私は20分。あとケーキが傷むし原油高だからイヤ。」

「風邪ひくから裸にはならんぞ。…ジャン。ケン。」

「いいわよ。…ぽんっ♪」

          ・
          ・
          ・
30151/52 ◆XksB4AwhxU
「60分間もいぢめられたいなんて…。マコトは本当に、いぢめられるのが好きね♪」

「………。」(おかしい、絶対におかしい…。
10円20円を気にする女の子が、なんで本格的なゑスゑムグッズを…。
しかも、大量に所持してるんだよ...ぉぃ。)

「道具もイッパイ時間もイッパイ。オマケに被験者はやる気満々。なんて最高のシチュエーションなのかしら♪」

「いや、被験者は普通に引いてるが…。」

「・・・そーいうシラケる言葉を吐いてると、後でマグロしか抱けなくなるよ。」

「ガンバリマス...。」

「よぉしっ♪じゃあ気を取り直して、軽くヒールから行ってみよぉ~っ♪」

七夕祭りみたいな鞭を、意気揚揚と掲げる半てん姿の女王サマ。
隣の住人は、ひと月前に夜逃げし、下は元々空き部屋なので、声の張りもバッチリだ。

しかし経験の浅ささ故か、池沢のプレイは単なる暴力に走り易く、
現時点で俺がマ人間化する事は、まず無いだろう。

「マコトは赤と白。どっちが好き?」
「ワインの話なら俺は未成年だ。ヒールの話ならトンがって無い方に決まってるだろ。」
「じゃあ、赤ね。」
「♯それはトンがってる方だっ!」
30252/52 ◆XksB4AwhxU
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だが、俺の方も状況は厳しい…。

床の無情な冷たさと、ハイヒールの非情な感触に耐えた所で
女王サマが、着ぐるみ大好きっ娘に変貌する訳でも無く、
鞭を食らい終われば、ご奉仕大好きのメイドさんが光臨してくれる訳でも無い…。

そしてナニより、ウ0トラ0ン以下の耐久時間でヒィヒィ言ってくれる程、彼女は甘くないのだ。

守るも攻めるもこれでは、来るべき勝利の日など永遠に来ない気がす…、

「∑ひィ(痛)でっ゙っっ!♯池沢っ!脳天にカカトはNGだって何度も言ってんだろっ!」

「まだ呼び捨てにするつもり?まったく…、いくら躾ても判らないバカ犬ね。」

「ちょっと待て…。犬呼ばわりなんてOKしてないぞ…。」

「うるさいバカ犬っ!私のことは、御主人さまとお呼びっ!」

「ぉ...。∑俺が言うんかいっ!!」


【 - 終わり - 】
31500/00 ◆XksB4AwhxU
感想ありがとうございます。

今回は、主人公と対等な関係にする為、ヒロインも変な趣味を持っている事にしましたが、
唐突に見えるとの指摘に、文章力の未熟さを反省しています。

前回・今回と独り善がりな文章に長々と付き合ってくださった皆様
本当に有難う御座いました。

次の機会がありましたら、もう少し見れるモノに仕上るよう努力します。