花島かなえちゃんが君の家にやってくる!(仮)

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完結
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13,793
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573◆TUrTQC5dZk
それでは、ここに貼らせていただきます。
>>532-535までとは別の話です。この小説はフィクションであり、実在の人物・団体・ゲーム等とは一切関係ありません。

「花島かなえちゃんが君の家にやってくる!」
と、いうやけに強調されたゴシック体の広告を政木啓之(まさきのりゆき)は見た。
 広告はとある電器店に貼られていた。エロゲの物である。その続きにはこう書かれている。
「このゲームの全部のエンディングを最初に見てくれた君の所に、メインヒロインの花島かなえが伺います。
詳細は取扱説明書をご覧ください」
この文章と共に、花島かなえと覚しき着ぐるみの少女の写真が写っていた。
 メイド服でちょこんと座っている。そんなに長くない紺色の髪に目はやや大きく、口元は微笑んでいる。
 啓之は、「自分のタイプだ」と感じた。「わざわざメーカー自ら着ぐるみを作って販促に利用するとは」
とも思ったが、そのポスターと前に並べられているゲームから立ち去ることができなくなってしまった。
 彼は学生で、一人暮らしをしているが、バイトを結構しているので金銭的には余裕があった。
 結局、本日発売のそのゲーム、「再開-君と見た夏-」を購入してしまった。
「秋に夏を舞台にしたゲームを売り出すのもなんかなあ」とは思ったが。

 15時間後、啓之はどうにか全てのエンディングを見ることができた。そのまま付属のはがきに必要事項と
画面に表示されたパスワードを書き込み、投函した。

 2週間後、啓之の家に一通の手紙が届いていた。差出人はあのゲームのメーカー。彼は期待しながら封を破った。
「この度は弊社のゲームをお買い上げ頂き…」
 要約すると、啓之は見事一番乗りでコンプリートしたこと、花島かなえは2泊3日も啓之の家に泊まること、
えっちなことも多少なら容認すること、「中の人」はいるということなどが記されていた。

 そして、例の日。啓之は待ちに待ちわびていた。彼のワンルームの部屋をできる限り掃除し、花島かなえを迎える
用意を整えていた。
 夕方になりかけたころ、「ビーッ!」と、古めかしいブザーの音がした。
 啓之は喜び勇んでドアを開けた。そこには秋の夕焼けで逆光になってはいたが、微笑を浮かべた花島かなえちゃんが
立っていた。背丈は啓之の胸くらい。150~160cmくらいだろうか。服装は写真と同じメイド服。
腕と足に少し皺はあるが肌タイツで覆われている。手には大きめのバッグを持っていた。
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「いらっしゃい、かなえちゃん」
啓之が震えた声でそう話し掛けると、かなえちゃんはちょっと引いた様子だった。
なんだか、おどおどしている感じがする。(今の話し方、アクセントとかちょっときもかったかな)と、啓之は反省した。
「とにかく、中へどうぞ」
 安アパートの一部屋で漫画とラノベとその他の本が6対2対2の割合で並ぶ本棚と、妙に周辺機器の多いパソコンが
存在感を放つ部屋で、「いかにも」といった感じの着ぐるみの少女(あくまでも見た目が、だが)と、「いかにも」といった
感じの青年とが向かい合って座っている様子は、なんともいえない妙な世界を造りだしていた。
 と、かなえちゃんがバッグの中から出した紙を政木に見せた。そこには、綺麗な字でこう書かれていた。
「私は今日から3日間だけお泊まりさせてもらいます。よろしくね。私は花島かなえだけど、中の人はいるから、
その人のことも気遣ってあげてね。えっちなことは嫌いじゃないけど、本当のエッチはやめてね」
 これを読んだ啓之は、
「うん、わかったよ。でも、中の人って書いてあるけど、具体的にはどうすればいいの?」と、訊ねた。
 すると、かなえちゃんは何かジェスチャーを始めた。どうやら、食べ物と飲み物が必要らしい。
「でも、中は生身の人間なんだし、食べたら出るでしょ。それはどうするの。うちのアパートは共同だよ」
と、啓之が問うと、かなえちゃんは頭を突き出し、両手を握りしめて真っ直ぐに下に伸ばした仕草をして、
そっぽを向いてしまった。どうやら、怒らせてしまってらしい。
「悪かったよ。ごめんね」
 啓之が謝ると、かなえちゃんはちらっとこっちをみて、また向こうをむいたが、再び啓之の方をみて、
「うん」とでも言うように大きくうなずいた。
「許してくれてありがとう。ところで、そのバッグの中には何が入っているの?」
 啓之はかなえちゃんの持ってきた大きなバッグを指差してたずねた。
 すると、かなえちゃんはバッグを開けて中の物を出した。スクール水着や制服などどうやら、
 ゲームに出てきた衣裳が入っているようだ。
 啓之の頭にゲームの画面がフラッシュバックした。かなえちゃんの手からスクール水着をもぎとるようにつかみ、
「これに着替えて!」と、懇願した。
 かなえちゃんは、どうしようかな、と言うかのように、人差し指を立てて顎のあたりにあてるジェスチャーをした。
しばらく考えていたようだが、やがて、小さくこくりとうなずいた。
「やったー!」と、近所迷惑もかえりみず大声で歓声をあげる啓之。
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 啓之から受け取ったスクール水着を手にとったかなえちゃんは、腕を伸ばして啓之の後ろ側を指差す。
どうやら、向こうをむいて、というジェスチャーらしい。啓之は素直に従った。見るなと言われた物を見ると幸せが逃げるのは、
昔話から教訓を得ている。
 数分後、悶々とした気持ちで向こうをむいていた啓之は不意に肩をたたかれた。
 振り向くと、そこには体にぴったりのスクール水着を身に着けたかわいらしい着ぐるみ少女が立っていた。
 後ろから見ると、肌タイツのチャックが見える。ここが、かなえちゃんへの唯一の入り口だと考えた啓之は、
心臓の鼓動が早まるのを感じた。
「と、とてもかわいいよ。いわゆる萌え、だね」
 かなえちゃんは、ありがとうと言いたそうに軽くうなずいた。
 そして、啓之はいつの間にかどこからかデジカメを持ち出して、
「写真、撮っていいかな?」と、訊いた。
 かなえちゃんは、うん、とうなずくと、ポーズをとり始めた。腕を頭の後ろで組んで、小さくはない胸を強調するように
体を反らせたり、手を腰に当てて斜めに立ったり。
 しばらく、マンto着ぐるみの撮影会は続いたが、やがて啓之は照れながら訊ねた。
「あの紙には『えっちなことは嫌いじゃない』と書いてあったけど、ちょっときわどいポーズとか、頼める?」
 かなえちゃんは両手を頬に当て、恥ずかしい、と言いたそうなジェスチャーをした後、小さくこくんとうなずいた。
「ほ、本当!じゃ、じゃあお願いします!」
 啓之の声があまりにも大きかったのか、かなえちゃんは人差し指を伸ばして口にあて、しーっ、と示した。
「ごめんね。ちょっと興奮しすぎた」
 しょうがないなあ、と言いたそうなポーズをとったあと、かなえちゃんはスクール水着に右手を入れ、股の部分に触れた。
左手は胸を揉むような形になっている。表情こそ変わらないが、ものすごくえろい。啓之は何枚も写真を撮っている。
四つん這いになったり、仰向けになったり、まるで、さっきまでの清楚で健康的な着ぐるみ少女とは別人のようだった。
 啓之は自分のものが固くなっているのにも気付かず、夢中で撮影をし続けた。
 かなえちゃんはあたかも今気付いたかのようにおおげさにそれを指差した。と、同時にそれをそっと握った。
「え、ちょっと、急に何を」
 啓之がそう言うと、かなえちゃんは素直に手を離した。
 ごめんね、というように手を合わせて軽く頭を下げている。
「別に謝らなくても。ただ、ちょっとおどろいただけだから」
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 表情はまったく変わっていないのに、なぜ彼女の二面性を感じることができるのだろう、と啓之は考えていた。
平常時はかわいらしい少女なのに、一旦えっちになると、性欲をかきたたせる妖女にも見えるのだ。
 その間も、かなえちゃんはとても過激なポーズをとり続け、啓之は撮影を続ける。
 
 気付いたら、夜も更けていた。もう3,4時間は撮影を続けていることになる。デジカメのメモリは殆どかなえちゃんの
写真でうまっていた。
 そして、いくら涼しい秋とはいえ、何時間も着ぐるみを着続けていると随分暑くなるのだろう。かなえちゃんの首周りと
脇には、濃い汗染みができていた。
「もう、そろそろいいか。写真の編集をしなくちゃ」と、言って啓之はパソコンを立ち上げた。
 かなえちゃんは、メモ帳に何かを書いているようだった。
 膨大な量の写真をパソコンのハードディスクに移しているとき、かなえちゃんが紙切れを手渡してきた。さっき何か
書いていたものらしい。それには、走り書きでこう書かれていた。
「いまから、お着替えをしたいからしばらくパソコンで遊んでいてね。絶対にこっちをみないで」
 仕方ないから、啓之はパソコンのディスプレイに向き直ったが、体中の全感覚はかなえちゃんのほうに集中していた。

 スクール水着を脱いでいるらしい布の擦れる音。そして、頭をはずしていると思われる音。「ふぅ」という中の人の吐息。
 啓之は初めて中の人の声を聞いた。細い、かわいらしい声だ。
 そして、ちーっ、というチャックの開く音。今、自分のすぐ後ろで、かなえちゃんの中身が自らの中身を露出している。
 啓之の中で葛藤が巻き起こった。今振り向けば、汗にまみれたかなえちゃんの正体が見える。しかし、それはこの甘美なる夢の
終焉を意味していた。せめて、ディスプレイの電源を切ってそこに映った彼女を見ようかとも思ったが、怪しまれるだろう。
 そうこうと、啓之の中で理性と欲望が争っているうちに、再び、しゃーっ、という鋭い音が聞こえてきた。どうやら、新しい
肌タイツを着たらしい。
 そのまま、着替えは完了してしまったようだ。
 啓之が肩をたたかれたとき、そこには家に来た時に着ていたメイド服を身に着けているかなえちゃんが立っていた。
「そういえば、夕飯は?」と、啓之が訊ねるとかなえちゃんは首を振った。どうやら、いらないらしい。
 そのあと、かなえちゃんは部屋の片隅にある小さな冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出して、
ちょうだい、というように上目遣いで(と、いうよりは顎を引いて)啓之を見つめた。
「う、うん。いいよ。自由に飲んで」と答えながらも、啓之は抑えられない衝動が胸の中に渦巻くのを感じた。
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 かなえちゃんはペットボトルを開け、ストローを指して、面の小さい口からどうにか飲んでいるようだった。
 カップラーメンだけの粗末な夕食をとった啓之は寝ることにした。時刻はすでに午前になっている。
「布団は一つしかないんだ。かなえちゃん、使う?」と、啓之は訊ねたが、かなえちゃんは小さく首を振った。
「確かに、その格好なら寒くはないよね」
 啓之がそう言うと、かなえちゃんは軽くうなずいた。
 かなえちゃんは部屋の隅にちょこんと座っている。豆電球の明かりの中から見ると、まるで人体サイズの大きな人形にも
見える。中の人は眠っているのだろうか、などと考えているうちに、いつしか啓之は眠りに落ちてしまった。

 意識がぼんやりしつつも、何やら物音がしたので啓之は目を覚ました。
 かなえちゃんの座っていたところを見ると、そこには彼女の姿はなかった。啓之はあせったが、廊下から人が歩く音が
聞こえてきたので、もしかしたら用を足しに行ったのかもしれない、と思った。
 事実、少したった後、そっとドアを開けてかなえちゃんは部屋に戻ってきた。よくみると、肌タイツと面しか身に着けていない。
確かに、ひらひらとしたフリルやリボンがいっぱいついた服では用を足すのは難しかろうが、そんな姿でほかの人に
出会っちゃったらどうするつもりだったのだろうか。しかも、体形は女性のそれである。
 そんなことを考えていると、悶々としてしまい、とうとう啓之は明け方まで眠れなかった。


 2日目も、彼女の持ってきた衣裳で撮影をしまくった。
 そんなことをしているうちに、いつの間にか夜になってしまった。
 啓之は正直つらかった。朝の撮影のときから、ずっと股間を硬くしたままだったのだ。しかも、かなえちゃんがえっちモードの
ときは突っついたり口を近づけたりと、さまざまなちょっかいを出してくる。なかでも、何回かしごかれたときが一番つらかった。
もう少しで、出せたのだ。そのときのかなえちゃんはバニーガール姿だった。ハイレグの股間がやけに印象に残っている。
その股間を軽く、軽くだが啓之の硬いものにこすりつけてきたときには、彼の頭は真っ白になっていた。そのあと、突然、
肌タイツの手でズボンの上からぎゅっと握り締められ、数回しごかれたのだ。ゲームのときよりも、妙にえろかった。
「そろそろ、お開きにしようか」と、啓之は言った。
 かなえちゃんもうなずく。昨日のように体中のいたるところに汗染みができている。服装は、露出度の高いビキニ姿。
 かなえちゃんは、また、向こうをむいて、というようなジェスチャーをした。
 啓之は、それに構わず、とうとう自分の欲望に正直になることにした。
「中の人、いるって最初に言ったよね」
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 かなえちゃんは、突然の質問に戸惑いながらもうなずいた。
「俺、どうしても中の娘に会いたいんだ。最後の夜だし、かなえられないかな」
 肌タイツの上にビキニを着けた少女は、明らかに狼狽した様子だった。何時間、いや丸1日以上この姿でいて、啓之が
ストレートに自らの願いを言うのを聞き、さりげなく自分の名前を使った駄洒落を披露されて、平静でいられるわけがなかった。
「やっぱり、だめだよね」と、啓之は諦めたようにささやいた。
 かなえちゃんはそれを聞いて、小さく首を振った。
「えっ!本当にいいの!?」
 予想外の答えに、啓之は今が深夜であることをまた忘れて大声をあげた。かなえちゃんは、また、しーっ、と言うように
人差し指を小さな口に当てた。
「ごめんごめん。じゃ、じゃあ早速、面を外してもらっていい?」
 かなえちゃんは、何も言わずに、何のジェスチャーもせずに面に手をかけた。啓之は顔を近づけて彼女を凝視した。

 ずぼっ、という音が聞こえたような気がした。

 かなえちゃんの、見方によってはかわいらしい少女にもなり、淫猥な妖婦にもなる面の下からは啓之と同い年くらいの
女性の顔が現れた。汗に濡れた、肌タイツとつながっているフードのようなもの(面下というのだろうか)がぴっちりと
頭に張り付いていて、その顔はまだ大人になりきっていないようにも見える。顔中汗まみれで、呼吸も少々荒い。頬は真っ赤だ。
 啓之は、彼女をどこかで見たことのあるような気がしていた。
 
 かなえちゃんの中の人は、突然、啓之に話し掛けた。

「久し振りね。啓之君。高校以来ずっと会ってなかったね」

 啓之はその発言を聞いて、頭の中に強い光が走ったかのように彼女のことを思い出した。

 山下亜理紗だ!

 亜理紗は啓之の高校時代の初恋の人である。が、とうとう告白することなく卒業し、それぞれの進路に進んでしまったのだ。
その後、彼女はとあるゲームメーカーに就職したと言う噂を聞いたが、まさかエロゲのメーカーだったとは。
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「もしかして、あたしの事、忘れてた? ゲームのタイトル通り、『再開』しちゃうとはね」
 フード状のタイツを頭から外して、汗に濡れたショートカットの黒髪をさらした亜理紗が問う。啓之は黙ったままだ。
「あたしは結構、啓之君のこと、気になっていたの。でも、互いにあまり話さなかったわね」
「俺も好きだった。なんど告ろうとしたかわからない」
「互いに、意識しすぎた訳か」
 首から下は、汗染みの浮かんだ肌タイツに露出度の高いビキニ姿の亜理紗が、ため息をつきながらつぶやいた。
「で、なんで亜理紗さんがかなえちゃんの中に?」
「それは…、私、役者になりたくてバイトしながら修行してたの。で、まあ、啓之君の好きなゲームに声の出演なんかも
何度かした訳。で、その縁でいつの間にか正社員になってたの。思ったよりも給料もよかったし。それで、今回の企画では
役者の経験もあるあたしにかなえちゃん役の白羽の矢が立ったわけ。そして、もちろん啓之君の素性を調べて、
着ぐるみかなえに乱暴するような人じゃないことを、確かめた上でここに来たの」
 話しながら、てきぱきと亜理紗は着ぐるみを脱いでいく。ビキニを外し、タイツのチャックを開け、脱ぐ。
汗で濡れているせいで脱ぎづらそうだが、どうにか全て脱いだようだ。下着姿で汗まみれの女性になってしまった。
「はじめ、啓之君の名前を聞いたときはまさか、と思ったわ」



 前日の夕方。
 会社の人にアパート前まで送ってもらい、部屋番号を間違えないように何度も確かめてから、呼び鈴を鳴らした。
 これから、2泊3日もこの姿でいるのか。実質、2日弱くらいだけど。手に持った大きなバッグのせいか、もう汗が
ふきだしてきた。
 事前に聞いていた名前と、郵便受けに書いてある名前が一致するのを見て、やっぱり高校生のとき同じクラスにいた人と
同姓同名だ、と思っていると、
「いらっしゃい、かなえちゃん」と、啓之君は迎え入れてくれた。
 彼の顔を見て、本当にあの啓之君だったのか、と驚いた。それが態度に出てしまったようだ。啓之君は反省しているような
表情を浮かべている。
「とにかく、中へどうぞ」
 戸惑いながらも中に入った。啓之君の部屋の中にはそういう趣味の物がかなりあった。高校時代の彼からはとても想像できない。
 とにかく、何かをしなくては。あ、そうだ、あの紙を啓之君に渡さなくては。
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 啓之君は、じっと紙を見つめて、言った。
「うん、わかったよ。でも、中の人って書いてあるけど、具体的にはどうすればいいの?」
 そんなのわかってるでしょ。人なんだから、食べ物・飲み物がなくっちゃ。
「でも、中は生身の人間なんだし、食べたら出るでしょ。それはどうするの。うちのアパートは共同だよ」
 何てこと言うの、妙齢の女性を前にして。なんか幻滅した。でも、それはあたしが啓之君のことを知らなかっただけか。でも、
かなえちゃんは怒ったわよ。
「悪かったよ。ごめんね」と、啓之君は謝った。彼を、一瞥してみる。
 来て早々喧嘩するのもよくないし、許してあげるか。着ぐるみだから、動作は大げさにしないとね。多分、人生の中で
一番深くだと思うくらいにうなずいた。
「許してくれてありがとう。ところで、そのバッグの中には何が入っているの?」
 現金な人だなあ。でも、2泊3日にしては大きすぎるし、女の子のバッグにしては無骨な鞄が気になるのは当然か。開けて、
中の衣裳を手に取る。今着てるメイド服やスクール水着や制服なんか、絶対に素のあたしじゃあ着ないだろうな。
 突然、啓之君はひったくるようにして、スクール水着を手にして、「これに着替えて!」と言った。
どうしようかな。ゲームのかなえちゃんは、エッチな女の子らしいけど、会ったばかりの人の前でこんな姿になるのもねえ。
ま、いいか。
「やったー!」と、啓之君は歓声をあげた。ちょ、ちょっと君、近所迷惑も考えなさいって。
 いくら着ぐるみの上からと言っても、服を脱いで水着姿になるのを見られるのはやっぱり恥ずかしい。啓之君には、
向こうをむいてもらおう。しかし、下着の上に全身タイツを着けて、その上に水着を着るというのは妙な感じがするなあ。
タイツの上の下着を取って、スクール水着に足を入れた。スクール水着なんて何年ぶりだろう。意外と体にぴったりだ。
ちょっときつい。まあ、どうにか着れたし、これでいいかな。啓之君も素直に向こうをむいているわね。
 とんとん、と啓之君の肩をたたいてみた。
 かなえをみた啓之君の表情がどんどん緩んでいくのが、面に開いた小さな穴からでもわかった。
「と、とてもかわいいよ。いわゆる萌え、だね」
 ありがとう、とちょっとうなずいた。啓之君はいつのまにかデジカメを手にしていた。
「写真、撮っていいかな?」
 どうせ嫌、と言っても撮るくせに。しょうがない、さびしい学生さんのために一肌脱ぐか。全身布で覆われてるけど。
「ほ、本当!じゃ、じゃあお願いします!」
 また、大声を出す。少しは反省してよ。しーっ。こんなジェスチャー小学生のとき以来だ。
「ごめんね。ちょっと興奮しすぎた」
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 まったくもう、気を付けてね。まあ、少しは反省してくれただろうし、サービスしちゃおうかな。どうせ、中にあたしが
いることを知らないのだから。グラビアアイドルが取るようなポーズをしてみた。啓之君のテンションがどんどん高く
なってきた。
「あの紙には『えっちなことは嫌いじゃない』と書いてあったけど、ちょっときわどいポーズとか、頼める?」
 啓之君、調子に乗ってきたな。でも、あたしもなんだか興奮してきてしまったし…。
左手で胸を揉んで、右手は股間に。これも、素のあたしだったら絶対にとらないポーズだ。
着ぐるみの中にいると意外と恥ずかしくないっていうけど、本当に大胆になれるとは。その後も、いろいろと思いつく限りに
恥ずかしいポーズをとった。
 んっ!?啓之君、勃ってる?ちょっとやり過ぎたかな。あーっ、何それ?と、言うかのように啓之君のものを指差してみた。
あたしも、なんだかえっちな気分になってきちゃったし、ちょっとだけならいいかな。
「え、ちょっと、急に何を」
 まだ、啓之君には理性が残っていたか。ごめんね。むしろ、あたしのほうが。
「別に謝らなくても。ただ、ちょっとおどろいただけだから」
 そうは言っても、実は嬉しかったんじゃないの?
 その後も、様々なポーズで写真を撮らせてあげた。あたしも、かなえも止まらなくなっていた。流石に、
ひとりえっちしているかのようなポーズはやりすぎだったかな。
 狭い視界からちらっと、部屋においてある時計を見た。もうこんな時間になってる。よくみると、汗が全身を
覆っているタイツに染み出ている。道理でのども渇く訳か。かなえマスクのなかも、随分と汗の匂いが立ち込めていた。
「もう、そろそろいいか。写真の編集をしなくちゃ」
 啓之君は、ようやくそう言ってくれた。あたしも、タイツを替えて、せめて汗を拭きたい。手元のメモ帳に、
暫く向こうをむいてくれるように書いた。素直に従ってくれるかな。
 メモを見た啓之君はパソコンの画面のほうを向いてくれた。大丈夫かな。あたしは、まず、かなえの顔を外した。ふぅ。
外界は思いのほか涼しかった。寒いくらいだ。とりあえず、タイツを脱がなきゃ。汗に濡れているそれは、
とても脱ぎにくかったけど、どうにか脱げた。
早く着替えないと風邪を引きそうなくらい、寒く感じた。本当に着ぐるみの中って暑くてむれるのね。
 汗をタオルで拭いた後、新しいタイツを身につけた。うん、いい感触。ちょっと苦労して背中のチャックを閉めたあと、
あたしは再びかなえになった。かなえはまだ、裸だ。とりあえず、ここに来た時に着ていたメイド服を着ることにした。
かなえの下着を身に着ける。あたしは、この服はリボンだのフリルだのが多すぎてあまり好きじゃないけど、
かなえはこの服を気に入っているのね。よし、着替え完了。
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 意外にも素直だった啓之君の肩をたたく。啓之君はやや欲求不満そうな表情をみせた。
「そういえば、夕飯は?」と、啓之君は言ったけど、まさかかなえの顔をずらして、あたしの口だけだしてむしゃむしゃ
夕飯を食べるわけにも行かないでしょ。そのかわり、何か飲み物をもらおう。冷蔵庫の中、ちょっと失礼するわね。
意外と整頓されてる。あっ、ミネラルウォーターだ。これもらおう。啓之君のところに、ペットボトルを持っていって
指差した。飲んでいい?かなえマスクの角度を考えながら、上目遣いになるように啓之君を見た。
「う、うん。いいよ。自由に飲んで」と、啓之君は上ずった声で答えた。かなえに『いわゆる萌え』たな。
 ストローを拝借して、うん、マスクの口にある空気穴をどうにか通った。これで飲める。ふぅ、久し振りの水分。
人心地ついた。啓之君はカップラーメンを食べてる。栄養バランス大丈夫なのか。余計なお世話だけど。

 あっ、もうこんな時間なの。日付変わってるじゃない。啓之君は食べ終わって、寝る用意をしている。
「布団は一つしかないんだ。かなえちゃん、使う?」
 使うわけないでしょ。男が毎日使っている、ろくに干してもいないようなのなんて。かなえは首を振った。
「確かに、その格好なら寒くはないよね」
 違うって。最初は全身覆ってるし暑かったけど、秋の夜って意外と冷えるの。でも、風邪引くほどではないかな。
あっ、トイレ行きたくなってきた。どうしよう。とりあえず、啓之君が寝るのを待とう。

 どうやら、啓之君は眠ったようね。それじゃ、そっと立って…ああそうだ、この服を着てると用をたしづらいわね。
ええい、脱いじゃえ。ああ、下着の上にタイツだけだとやっぱり冷えるわ。さっさと行ってこよ。ドアを開ける音は
思ったよりも大きく響いた。大丈夫かな。
 どうにか、用をたして部屋に帰ってこれた。啓之君は寝てるようね。よかった。あたしも、服を着てさっさと寝よう。

 次の日も、あたしの持ってきた衣裳で撮影をした。啓之君はどんどんずうずうしくなり、かなえはどんどんえっちに
なった。啓之君の棒に様々なちょっかいをだす。へやにあったマッサージ器を当ててみたり、足で触れてみたり。
でも、握って何度かしごいたのはやりすぎだったかな。
 長い時間撮影した後に、「そろそろ、お開きにしようか」と、啓之君は言った。
 そのときのかなえはビキニ姿。これは、素のあたしでも身に着けるかもしれない。
 また、タイツのあっちこっちに汗が浮き出ている。じっとりとした感触。着替えたいけど、もう替えはない。
仕方がないから、我慢することにした。でも、ビキニのまま寝るわけにもいかないから、啓之君に向こうをむいて
もらって、またメイド服にでも着替えるか。意外と暖かいし。そう思いながら、かなえが啓之君の後ろを指差したとき、
啓之君は言った。
583◆TUrTQC5dZk
「中の人、いるって最初に言ったよね」
 確かに言ったけど、まさか、あたしの顔を見せろと言うの。高校生のとき同じクラスだった女の子がこの中に入って
いるって知ったとき、啓之君はどんな反応をするだろう。
「俺、どうしても中の娘に会いたいんだ。最後の夜だし、かなえられないかな」
 どうしよう。まさか、あたしがいろいろあった末にエロゲのメーカーの社員になっていて、しかもそのゲームの
キャラクターに化けてここにいるなんて、啓之君はきっとショックを受けるだろうな。でも、最初に中の人はいるって
言っちゃったし。うーん。しかも、何さりげなくうまいことを言ってるの。本人は意識してないみたいだけど。
「やっぱり、だめだよね」
 啓之君はとても残念そうな顔をしていた。ええい、ままよ!酸素が少なかったせいで脳が弱っていたのか、あたしは
啓之君と「再開」を果たすことにしてしまった。
「えっ!本当にいいの!?」
 しーっ。いいかげんに懲りなさいよ。やっぱりかなえマスクを取るの、やめようかな。でも、ここでやめると言ったら
また大声を出すだろうな。
「ごめんごめん。じゃ、じゃあ早速、面を外してもらっていい?」
 かなえは、その声に反応せず、自らの顔に手をかけた。思ったより脱ぎにくい構造になってる。あたしは、一気に
かなえマスクを外した。



「まさかと思ったって…でも、俺を見たとき一目でわかったんだろ?」
と、啓之は言った。
「うん。元クラスメートの意外な一面が見れて面白かったわ」
「ひどいな。でも、亜理紗さんだってずいぶんえっちだったじゃないか」
「うっ、そ、それはエロゲのキャラだし、啓之君も喜んでたじゃない」
「ところで、亜理紗さん全部脱いじゃったけど、どうするの?ここには女物の普通の服なんてないよ」
「あっ、そうだった。ずっとかなえに拘束されてたから、つい脱いじゃったけど。しょうがない、また着るか…」
 そのとき、啓之は自分の欲求にさらに正直になることにし、驚くべきことを言った。
「その前に…俺がかなえになってもいい?」
584◆TUrTQC5dZk
「えっ!?」
 当然、驚いて聞き返す亜理紗。
「いや、あの、俺が着ぐるみの女の子が大好きなのはとっくに気付いていると思う。それで、一度でいいから
着ぐるみ少女になってみたかったんだ。しかも、亜理紗さんのエキスがじっとり染み込んだのを着られるなんて
二度とないチャンスだから」
 真顔で力説する啓之。
「啓之君、そこまで変態だったの?」
「うん、だからお願い」
 下手に断ると何をされるかわからないような状況だった。それに、実は亜理紗も悪い気はしなかった。
「しょうがないな、ちょっとだけだよ。それと、着る前にコンドームをつけてね。あっ、静かに。今は夜中なんだから」
 啓之の立派な股間を指差しながら、亜理紗は諦めたような表情で言った。
「やった。ありがとう」
 啓之は声を抑えながら、大げさに喜んだ。
 早速、服を脱いでシャツとパンツだけになる。亜理紗から隠れるように後ろを向いて、そそり立つ物にかぶせた。
「準備オーケー。では、そこに置いてあるえっちな女の子に命をふきこみます」
 そう言って、啓之は亜理紗の汗でじっとりと湿った肌タイツを手にとった。チャックの開いたままになっている
背中に、足を入れる。汗で濡れているせいでなかなかタイツの足の部分がはけない。亜理紗は下着姿のまま、諦観の
目つきで啓之を見つめていた。
 どうにか足を収めた啓之は、次に腕の部分を身に着けようとした。ここも汗のせいでなかなか腕が入らない。
やっとのことで、指まで通した。
 最後に、フード上になってる部分に頭を入れて、亜理紗にチャックを閉めてもらい、肌タイツを完全に身に着けた。
「うわ、きっついな。汗臭いし」
「嫌だったら、脱ぐ?」
 意地悪そうな表情をした亜理紗は、訊いてみた。
「違うんだよ。これがいいんだ」
 亜理紗は理解できない、といったような表情をして、冷たい視線を啓之に送った。
「つぎは、衣裳を身に着けようかな。これがいいなあ」
 啓之が手にとったのは、かなえちゃんが一番えっちになったときに着ていた、バニー服だった。
585◆TUrTQC5dZk
「これ、胸がないとずり落ちるかもしれないわよ」
と、亜理紗は言ったが、啓之は構う様子もなく網タイツを履き始めている。
 そして、真っ黒なレオタードというような衣裳のメインを手に取り、履くように着た。胴が亜理紗よりも太いせいか、
ずり落ちることはなかった。ただ、ハイレグの股間の部分が非常に見苦しかったが。
 そして、うさぎの耳をかなえちゃんの面に取り付けた。
 啓之はごくりと唾を飲んだ。いよいよ、無理がある部分はあるにせよ、憧れの着ぐるみ少女になれる。動悸はどんどん
速くなってきた。

 一気に面をかぶった。なんだか、亜理紗のにおいがしたような気がする。

 一瞬視界がなくなったが、面をずらして、どうにか外が見えるようになった。
 部屋には小さな鏡しかなかったが、それをのぞいてみた。胸がなくて、股間が大きい点を除けば、とてもかわいらしい
女の子だ。啓之のものはますます硬くなった。
「はじめまして、かなえちゃん。君とはとても近くにいたのに、会うのは今が初めてだね」
 いつの間にかメイド服を着ていた亜理紗は、かなえちゃんに挨拶した。これはこれで、萌えるな、とかなえちゃんの
中の人は思った。
 かなえちゃんは、挨拶に応えるかのように亜理紗に手を振った。
「かわいらしいわね。でも、あたしが入っていたときのほうがもっと女の子らしかったんじゃない」
 啓之は、息苦しいかなえちゃんの中で、そりゃそうだよと思っていた。
 かなえちゃんが、特にこれということもなく突っ立っていると、
「かなえちゃんは、えっちな女の子なのよね。だったら、その大きくなった股間をどうにかしなさいよ」
 意地悪く亜理紗は言った。どうやら、元「中の人」も相当えっちなようだ。
 仰向けになったかなえちゃんは震える手で、股間の硬いものに手を伸ばした。
 つん、とつついてみた。ひゃうう、とあえぎたくなるような震えが啓之をつらぬいた。
「生ぬるいわね。もっとこうしなきゃ」
と、言って亜理紗は微笑みながら、かなえちゃんの突起物を握り締めて何度もしごいた。
 びくんびくんと、大きく体を震わせるかなえちゃん。
「こうやるのよ。わかった?」
 小悪魔のような表情で亜理紗は言った。かなえちゃんは首を振る。
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「まったく、仕方がないんだから」
 亜理紗はそう言うと、かなえちゃんの股間にまたがった。メイド服のスカートで啓之の大きいものは隠れた。
 えっ、ちょっと、まさか、と啓之が思っていると、亜理紗は手で刺激しながら、啓之のものに、股間をこすりつけた。
 啓之は声を出しそうになるが、どうにか耐えた。亜理紗は近所迷惑も考えずあえぎ声をあげている。
 かなえちゃんは、とうとう大きく体を震わせながら、絶頂に達してしまった。
「もう、いっちゃたの?」
 亜理紗は甘い声で責めるようにそう言った。
「残されたあたしはどうなるの。責任とってよ」
 そう言いながら、自らのスカートをめくり上げて濡れた下着を見せた。
 かなえちゃんはうなずくと、亜理紗の股間に顔を近づけ、タイツに覆われた手をショーツの中に突っ込んだ。
 亜理紗はいやらしい声をあげながら、着ぐるみの女の子の与える快感に身を任せきっていた。そして、そのまま
果ててしまった。

「ありがとう。あたしの夢を二つもかなえてくれて」
 快感から落ち着きを取り戻した亜理紗は突然そう言い出した。タイツの指先が汚れてしまったかなえちゃんは、
何のこと、というように首をかしげた。
「ひとつは、啓之君と愛を確かめること。もう一つは、着ぐるみと交わること。ようやく自分に正直になれた。
あたし、着ぐるみにえっちな感情を抱く人なんだ。今、かなえちゃんの中にいる人と同じで」
 かなえの中で汁まみれになっている啓之は、驚きと喜びを同時に感じた。でも、いい恋人ができた喜びの方が
ずっと大きかった。

 翌日、再びかなえになった亜理紗は帰っていった。昨日の肌タイツは汚してしまったので、初日に着ていた物を再び身に着けて。

 数日後、まだあの日の衝撃が抜けない啓之のもとに、再びかなえちゃんがやって来た。
「ど、どうしたの!?またここに来るなんて」
 かなえちゃんは、持っている紙を啓之に渡した。それには、こう書かれていた。
「かなえちゃんは、亜理紗のものになりました。実は、かなえのゲームそんなに売れなかったの。だからこのままだと、
廃棄処分されるというので、亜理紗に救ってもらいました」
 啓之は興奮と喜びに飛び上がって歓声をあげた。 (終わり)