ウララ

状態
完結
文字数
4,563
投稿数
8
他の形式
Plain Text
RDF
706BGDC
書いて見ますた。

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『えっ、着ぐるみ…?』

私は理沙、高校二年生。
普段は近所のマックでバイトしてる。
昨日、いきなり、店長から呼び出しを受けた。

『今週末、店でイベントがあるんだけど、そこで着ぐるみを着てもらえないかな?』
『私がですか?』
『そう、実は、君みたいに身長が低めの子が他にいなくってねぇ、というか、君の身長でもギリギリなんだ。
そんなわけで君しかできるひとがいないんだけど…引き受けてくれるかい?』
『いいですけど…ところで、どんなやつなんですか?』
『“ウララ”という女性型アンドロイドらしい。まぁ、くわしくは後日とどいたときにでも。
また連絡するよ。』
『わかりました。失礼します。』

こうして、私は着ぐるみを着ることになった。



☆イベント当日の朝☆

私は、一体どんな着ぐるみを着るのか気になっていた。
正直、長い間入らされてずっと街頭に立っていなければいけないのが不安でもあった。


『おはよう、君が中に入る着ぐるみが届いているから、レオタードに着替えておいてくれ』
『わかりました』
『これが君の着る着ぐるみだよ』

見せられたのは、レオタード、白い全身タイツ。
それに、肘から先と、腰から上を覆うためのプラスチックでつくられた銀色のパーツ類、アニメのような顔の面と、
透明な球形のヘルメットだった。
靴まで見事に銀色で統一されている。

『こんなに…着るんですか?』
『うん、設定が設定だからしかたないんだけどね。時間もあまりないし早速着てみてくれないか?』
『はい…』

とはいうものの、実際どうなるやら…
面も被って、更にヘルメットも被るのだから、呼吸は良くはなさそうだ。
前だって、すごく見づらいだろうし…

とりあえず、レオタードを女子トイレで着てきてから、店長のいる部屋に戻って全身タイツを手に取る。
背中を開け、そこから徐々にもぐりこんでいく。
目の部分以外全身がタイツでぴったり覆われて、めちゃめちゃ恥ずかしい。
しかも店長の前でこんなことするなんて。
店長に背中のチャックを閉じて貰う。
『じゃあ次は外側のパーツをつけていくね。』
店長は全身タイツの上から、腰、胸、…と順番にパーツをくっつけていった。
自分の足や体が、だんだん覆われていく。
店長が私でもギリギリと言っていただけあって、パーツの締め付けがキツイ。
プラスチックだから、中はものすごく蒸れそうだ。
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腕の部品をつける段になって私はあることに気が付いた。
『これ…、指先がわかれていないんですけど…』
『あぁ、これね』
『もしかして、これ着ちゃったら自分じゃ脱げないってことですか?』
『そうなるね。でも、まわりに人がいるから安心して。何かあっても大丈夫だよ』
店長はそういってフォローした。
でも、私はこの着ぐるみに入った後、
誰かに脱がせてもらうまでずっとこのキャラクターでいなくちゃいけない。
つまり私のことをずっと“ウララ”にするっていうこと…。

そうこうしてるうちに、首までのパーツがつけ終わった。
私は今、首から腰までと、肘から先が全て銀色のFRPに覆われている。
首から胸までは一体になっているので、首が大分動かしづらい。
肘から先は固定されている。まるで、生きた人形だ…。
『じゃあ、いよいよこれを被るよ。』
そういって店長は面を持ち出してきた。
前後に割れるようになっていて、私の頭をサンドイッチするようになっているらしい。
首のパーツと凸凹が噛みあってしっかりロックされてしまうようだ。
『あ、そういえば、この面を装着したら首はふれなくなるから注意してね』
『え、何でですか…?』
『ほら、この面の上に更に球形のヘルメットを被せなくちゃいけないだろ?けど、ヘルメット自体は
胸のパーツに固定するから、首の動作の時に面がぶつかって割れる可能性がある。そんなことが万が一あったら、
周りに居る子供達が危ない。だから、面も首のパーツに固定することでヘルメットの破損を防ぐんだよ。』
『じゃあ、うなづいたりすることも…』
『出来ないね。ま、なんとかなるだろう。』

この面を被ったら、意思表示すら、許されないなんて…
万が一何かあったら……

そんな私の不安をよそに、店長は面をパカリと開けた。
クリクリした緑の瞳、小さな鼻、これが、私の顔になる。
首のパーツと面との凹凸をあわせながら、慎重にはめて行く。
『じゃ、閉じるね』

ガチャッ

面が閉じられた。
視界がすごく悪い。私の視界は、目の前の小さな穴だけ。肩から上が全く動かせない。。。。

『どうかな?前、見える?僕が見えたら手を振ってみて?』
とはいうものの、首が回らないため、上半身を動かすしかない。
やっとのことで、店長を見つけ、手を振ってみる。
『あ、わかるみたいだね。じゃあ大丈夫かな。じゃ、最後にこれを被せるね。』
カポンと音がして、目の前の視界が少しゆがんだ。
どうやら、ヘルメットを被せられたらしい。
こんなんで、ちゃんと歩けるんだろうか。
『おっともうこんな時間か、ちょっと待っててくれ』

バタッ

そう言って店長は部屋から出て行った。
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ハァ、ハァ、ハァ………

一人部屋に取り残された、私。
自分の呼吸音だけが頭の中にこだまする。
最初はただただぼーっと立っていたけど、なかなか店長が帰ってこない。
店長を追いかけようにも、この手じゃドアノブを回すことすら出来ない。
当然、この着ぐるみは一人じゃ脱げない。
呼吸もなんだか苦しい。
“誰も帰ってこなかったら、どうしよう…”
冷や汗がどっと出る。

幸い、店長は帰ってきてくれた。
『ごめんごめん。いつの間にか開店時間を少し過ぎちゃっててね。
さぁ、君もそろそろお仕事に入ってもらおうかな。
街頭に出ても、他の店員が変わるがわる君の事を見張ってるから、安心して。』

ブーツを履かせてもらい、私は店長に連れられて、部屋を出た。
視界が狭い上に、ヘルメットで視界がゆがんで、足元が見えにくい。
一歩ずつ、店長にすがるようにして、歩く。
一人で店頭に立っていることなんてできるんだろうか……。

そうこうしてるうちに、廊下を抜け、街頭に出た。

子供達がいっせいに寄ってくる。
出て最初はびっくりしたけど、だいぶ慣れてきた。
手を振ると子供達も返してくれるのがかわいい。
喜んでくれているみたいだ。
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……暑い。
少しサイズの小さいピチピチのタイツだけでも相当蒸れちゃう。
しかも、設定がアンドロイドだから、肌が透けないように厚手だし。
さらにその上からプラスチックのパーツと面、ヘルメットまで被って。
脚はパーツが無いから少し涼しいけれど、腰から上はサウナ。
私は今、その中に閉じ込められちゃってる。
視界もほとんど奪われて、話をするのも聞くこともろくにできない状態。
何も自分で表現できない、ただただ愛想を振りまくだけの人形。
自分の素肌を一切露出しないで、無機質なアンドロイドとして振舞う私。

そんな私を、アクシデントが襲った。

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早速続きを書いてみました。
今度はちゃんと表示されるように改行しました。
ご声援ありがとうございます。励みになります。
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店頭に立ってどれくらい経ったか分からなくなりかけていたころ、アクシデントは起きた。

ドカッ!!

誰かが後ろからぶつかってきた。
私は手をつこうと、前に手を出す。
でも、プラスチックで肘から先は固定されているから、突き出しても手をつけるはずもなく、
私は肘を折りたたむようにして地面に倒れこんだ。
幸い、ヘルメットは少し傷が付いただけで、割れずに済んだ。
安心して立ち上がろうとしか瞬間、私はあることに気がついた。


起き上がれない!!!


首を振って反動をつけてみるけど、当然固定されててほとんど動かない。
ヘルメットが球形だから、私がもがくと体が転がりそうになる。
ゴロゴロ、ゴロゴロ。むなしい音を立てて、ヘルメットが地面とこすれる。
手を使いたいけど、指が一緒になってて、しかも手首が曲がらない。
肘をついて起き上がろうとするけど、立てるところまではいかない。
『手がつければ立てるのに!!!!』
視界もろくにないまま、ただただ地面でもがき苦しむ私。
周りでもがやがや騒いでいる声がする。
『立てない~、苦しいよぉ』
叫んでみたけど、面とヘルメットにさえぎられて声は届かないらしい。
パニックになって、足をばたつかせる。
汗でグチョグチョになったプラスチックの体の中で、私は悶えていた。
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『大丈夫???!!!』
その声とともに、私は仰向けにされ、抱きかかえられた。
声の主は店長だった。
店長はそのまま私を抱きかかえ、店の裏口からスタッフ専用の部屋に入った。

『ごめんなぁ、イベントの終了時間はとっくに過ぎていたんだけど、
ウララが余りに人気だからそのまま立っていて貰ったんだよ。
で、イベントが終了しちゃってたから、他の店員も君の事を見張るのを忘れていたらしいんだ。
今、脱がせてあげるね。』

私は床に横たえられ、まずヘルメットを脱がされた。
ゆがんでいた視界が元に戻って、少しだけ呼吸が楽になる。
次はいよいよ面だ。
店長が各部のロックをはずしていく。ガチャガチャと耳元で音がする。
『お疲れ様~』
視界が急に開けて、明るい部屋の照明が目にまぶしかった。
まだタイツ越しだけど、今までよりめっちゃ呼吸が楽。
『お疲れ様~じゃないですよ店長!!死ぬかと思ったんですから!!
呼吸は苦しいし一人で脱げないし倒れても起き上がれないし!』
『ごめんごめん。ホントごめん。店の方が回転はやくて…』
『とにかく早く脱がせてください!!!』
店長は申し訳なさそうな顔をしながら、残りのパーツをはずしにかかった。
装着するときとはちがって、はずすのは案外あっという間だ。
首、胸、腰…私の体があらわになっていく。
最後に手のパーツがはずされ、私はまた全身タイツ姿になった。
所々に汗ジミができている。見るからににおいそうだ。
また店長に背中のチャックを開けてもらい、全身タイツを脱ぐ。
ついに、私は“ウララ”から開放された。
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『店長~こんなにきつい仕事だなんて聞いていませんよ~。
苦しいし、蒸れるし、汗ダクダク、前は見えないし。。。。。』
『今回はホント悪かった。でも、子供達に大人気だったし。よかったよ。
また何かイベントがあったらよろしくね』
『何言ってるんですか!もう私はコリゴリです~…。』
『とりあえず今日はお疲れ様。着替えたら帰って良いよ。
じゃあ、僕は店にもどるね。』

部屋には、着ぐるみが残された。
着ている時は暑くて仕方なかったが、こうして見るとなんだかかわいい。
よく考えれば、自分で着た姿をみたことなんてなかった。
きっとこれが手を振ってたらかわいかったんだろうな…。
正直、自分が着ているウララを見てみたかった気もする。
でも、もう着ることもない。

少しの名残惜しさを感じながら、私は部屋を出た。
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ほい、一応『ウララ』完成です。
読んでくださった皆様ありがとうございました。
また機会があれば、書こうかと思っています。
僕は脱げない着ぐるみが大好きなので、そういったストーリーにしました。
次も書くとしたら脱げない着ぐるみですね、間違いなく(笑)

あと、挿絵を描いてくださる方いらっしゃいませんか?
皆さんがどんなイメージで読んでいたのかすごく気になるので。
できたらでいいのですが、よろしくお願いします~☆