夢幻征四郎 調査ファイル002 “リンドウ”

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122夢幻征四郎
夢幻征四郎 調査ファイル002 “リンドウ”
「うぅ・・・」
小さな窓から朝日がさんさんと差し込んでいる。
ここは都内のボロ雑居ビルにある小さな探偵事務所「夢幻探偵事務所」。ソファーの上に横たわっている伸び放題の髪に無精ひげをたくわえた男が、私、夢幻征四郎だ。私はこの探偵事務所で寝泊りしているので、ここが仕事場兼我が家だ。このソファーは私がここを借りたときにはすでにあった。あちこち破けていてボロッちいが寝心地は抜群なのだ。
「頭、痛ってぇ」昨日飲みすぎたせいか頭がズキズキと痛む。私はあまり酒に強いほうではない。ふらつきながら流し台まで歩き、生ぬるい水道水を一気に飲み干した。おっとそうだ、忘れないうちにあれを書いておかねば、とあわててパソコンのスイッチを入れた。
「なにせ願ってもない重要な手がかりだからな」
123夢幻征四郎
私はDollersの捜索を続けていた。Dollersとは着ぐるみが人間の悲しみを癒すという謎の店である。大学の同期で着ぐるみコスプレイヤーのAからDollersの所在調査を受けた後、街での聞き込み調査を続けていたが手詰まりになりつつあった。だが5日前、事態は思わぬ展開を見せた。
プルルルル、プルルルル、ガチャッ
「はい、夢幻探偵事務所です」
「あ、もしもし、Aなんだけども、君に知らせたいことがあるんだ」
「何だ」
「僕、この前のオフ会で思い切って皆にDollersのことを話してみたんだ。そしたらBさんという人が知っているらしくて、君に話したいって言ってくれたんだ」
「え?どうしてお前じゃなく、俺なんだ?」
「さあ?あまり人に聞かれたくないからって言ってたけど」
その後Bに連絡を取り、次の金曜日の夜9時に直接会って話を聞くことになった。
124夢幻征四郎
約束の夜、私は某ヒルズにある超高層マンションでBの部屋の扉の前に立っていた。時間ぴったりにインターホンを押す。
「はい、どちらさまで?」
「夢幻探偵事務所の夢幻です」
ピーッ。電子ロックが外れる音と共に、おっさんが勢いよく出てきて私に抱き付き、熱いマウス・トゥー・マウスのキスをしてきた。
「~~~~~~~っ」
私は手足をばたつかせて抵抗し、何とか離れることができた。
「な、何をするんですかぁっ。いきなり!?」
「何って歓迎のキスに決まっているじゃないか、君ぃ。常識だろ?」
男とキスするなんて生まれて初めてだ。最も女とキスしたことは皆無なのだが。
「ささ、中へどうぞ。狭い家ですまないね」
男の言葉とは裏腹に、通されたリビングは20畳くらいあった。白いソファーとガラスの低いテーブルが置かれ、その下には丸まる1頭分のトラの毛皮のじゅうたんが敷かれていた。南側の壁はガラス張りになっていて、眼下には見事な夜景が広がっていた。リビングの真ん中には1枚の姿見があり、その周りには、何着ものセーラー服やブレザーが散乱していた。
「ついさっきまで、新しく買った衣装で1人ファッションショーをしていたんだ。ちなみに今、私が着ているのがかの有名なギャルゲー「どきどきメモリーズ」にでてくる山の上学院のものだよ。どうかな?」
腰をひねってポーズをとって見せるB。肌色タイツの顔の穴からのぞく初老の顔が微笑んでいた。
Bというのは彼のハンドルネームだ。彼は表の世界では、先日40代前半という若さで、国内最大のシェアを占めるIT産業グループのトップに就任した。週刊誌は彼の顔立ちから、「IT産業のライオン」の異名をつけた。年の割に王としての貫禄をすでに持っていた。こんな輝かしい経歴を持つ彼は、キャリア15年の古株の着ぐるみコスプレイヤーでもあり、着ぐるみコスプレを世界に誇れるレベルにまで押し上げた人なのだそうだ。彼は着ぐるみの世界でも王として君臨しているのだ。
125夢幻征四郎
「どうぞおかけください」とB。
「はい。ありがとうございます」私はソファーに浅く腰掛けながら言う。
Bは酒のビン1本とグラスを2つを持ってきた。
「1杯いかがですか」
「いえ、仕事中ですので遠慮します」
「そうですか、では私だけ失礼」
Bはそういうと酒をグラスに注いだ。輝くような黄色い液体だった。
「あ、こちらが私の着ぐるみの錫子(すずこ)です」
ガラステーブルの上には、黒い目、栗色のセミロングのまだ幼さの抜け切らない少女のお面が微笑んでいた。Bはキャリアは長いが錫子一筋を貫いている。また学生服に思い入れがあるのか、Bのサイトのギャラリーには、ありとあらゆるアニメ、ゲームの学生服を着た錫子の写真が飾られている。
「君はDollersについて聞きたいのだったね」
「はい。何でも知っていることを教えてください」
「僕も未だに不思議に思う。しかし、確かに見たんだ」
酒を1口飲んでBは話を始めた。
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15年前のあの日、真っ黒いスーツと真っ黒いネクタイといった格好で僕は夜の街を歩いていた。足取りはふらふらと心もとない。顔はすっかりやつれてしまって、青白かった。あてもなく歩いているうちに何かにつまずいてバランスを崩し、何かに思い切り顔をぶつけた。
「アイタタタタタ・・・」
顔をさすりながら、自分のぶつかったところをよく見ると、木の扉だった。見上げると赤いネオン灯の看板が光っていた。“Dollers”何かの店だろうか。なぜか気になり、扉を押して中に入ってみた。中は洋館そのものであった。アンティークのテーブルといすが3セット行儀よく並んでいて、古いスタンドが辺りをやさしく照らしていた。応接間であろうか。
「いらっしゃいませっ」突然後ろから黄色い声を掛けられたので、驚いてしりもちをついてしまった。
「だ、大丈夫ですかっ!?」差し出された小さな手。見上げると、黒髪、黒い目をキラキラさせたメイドさん・・・の着ぐるみがいた。何がなんだか分からない。やっとこさ立ち上がり、何度も深呼吸をした。落ち着け、まず状況を把握しよう。
「お怪我はありませんか?」
「大丈夫です。でも、ここは一体?」
「ここはDollers。私達人形が人間の悲しみを癒してあげる場所なんだよ」
「あの、よく分からないんだけど」
「私達人形はね、人間の悲しみに寄り添うために存在しているの。ここはね、あなたのように『悲しいよぉ、』『苦しいよぉ』って泣いている魂を持つ人と、お話したり、触れ合ったりして、気持ちよくなってもらう場所なの」
「まあ、よくわかんないけど。お願いしていいかな」
「はい。喜んで。じゃあ、この中から好きな子を選んでね」とメイドさんはカタログを手渡してくれた。カタログにはありとあらゆる人形の写真が並んでいた。写真の下には、名前と一言自己PR(「ピアノが得意です」「たっぷりいぢめてア・ゲ・ル」等)が書かれている。
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「あの、この子をおねがいしたいのですが」
「はい、大丈夫ですよ。料金は1時間2万円、1時間延長するごとに1万円ずつ追加料金をいただいています。よろしいですか」
「はい」
「はい。では奥の部屋へどうぞ」メイドさんに連れられて黄色いドアの前に案内される。
「中にお入りください」とメイドさんはドアを開けて僕を中に入れてくれた。
「すぐにご指名の子を呼んできますので少々お待ちください」といってメイドさんはドアを閉めた。部屋はリビングと小さなダイニングキッチンといった1LDK。ダイニングには花瓶が載っているテーブルが1つと椅子が2脚。リビングにはカーペットがしかれ、その上にローター、手錠などの攻め具が散乱していた。驚いたのはこの部屋の壁、天井、家具が鮮やかな黄色だったことだ。幸福そうな新婚さんの部屋といった感じで、自分にとって最もふさわしくない部屋だと思った。
コンコンッ。ついに来たようだ。
「どうぞ」
ドアを開けて1人の少女の着ぐるみが入ってきた。栗色のショートヘア、吸い込まれそうな深いブラックの瞳の女の子が口を小さいワの字にして健全な笑顔を振りまいていた。白いブラウスにチェックのミニスカート、白いハイソックス。歩くたびに明るいピンクのショーツが見え隠れした。バスト1メートル位の胸がブラウスの中で窮屈そうにしていた。
「私、恥ん子(ち○こ)っていうの。花の17歳でーす。お料理するのが得意なんだ。食べたいものがあったら遠慮せず言ってね」
声はどこから出しているのか。中の人がしゃべっているにしては声が曇ってないし、他の人が声を当てているにしては身振りに合いすぎている。
「ぼ、僕はBといいます。ち・・・恥ん・・・」
「恥ずかしがらなくても大丈夫だよ。ここにはあなたと私しかいないから」
「あ・・・うん、でもよくできた着ぐるみだね」
「着ぐるみじゃないよ、恥ん子はお人形さんだよ」
「ははは、こんなによく動く人形がいるわけないよ。どうせ背中にチャックとかあるんでしょ」
「・・・じゃあ証拠見せてあげる」
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と恥ん子は目の前で服を脱ぎだしたではないか。僕はあわてて目を覆った。恥ん子は僕にお構いなしで脱ぎ続ける。
「ほら、よーく見て。チャックなんてないでしょ」
確かにチャックの穴はなかった。呼吸口もない。体は柔らかいゴムでできているようだ。
「・・・分かったよ、お人形さんということにしてやる」
「分かればいいの。じゃあ何しよっか?何かわたしにやってほしいことある?」
「じゃ、じゃあ、この部屋の中にいるときだけ僕の奥さんになって。それも新妻に」
「え?」
「ダメ?」
「・・・いいよ、あ・な・た。疲れてるでしょ。先にご飯にする?それともお風呂?」
そのとき、急に足の力が抜けて僕はその場にへなへなと座り込んでしまった。
「大丈夫!?あなた」
「ああ、たいしたことないよ。この3日間何も食べてなくて」
「大変、おかゆ作ってあげるから、そこで休んでて」
「うん」
恥ん子はキッチンに行くと、てきぱきと調理にとりかかった。僕は恥ん子の後姿を見ていた。なんと恥ん子は裸のままエプロンをつけて調理をしていたのだ。すもものようなかわいいお尻をふりふりして米を研いでいる。時折こちらを気にして振り向くのだが、そのときエプロンの脇からはみ出た乳房が僕を誘惑してくる。
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「よし、後は待つだけっと。もうちょっとだから待っててね」と鍋を火にかける恥ん子。
「うん」だが僕は見逃さなかった。恥ん子が足をもじもじさせたり、ギュッと太もも二力を入れているのを。まるで何かに耐えるかのように。
「やだ、体が火照ってきちゃった。でも夫の目の前でなんて、破廉恥だわ。でも、でも・・・」
かすかに独り言が聞こえてくる。僕は見てしまった。恥ん子が1人エッチをしているところを。後ろから見る限り、エプロンの内側に手をいれて、自分の胸を、円を描くように揉んでいるようだ。
「あうっ」「んふっ」甘く切ない声がかすかに聞こえてくる。
目の前には、夫の前で自慰をするエッチな新妻。でも恥ん子は着ぐるみで、表情は変えられないから、こんなに淫らなときでもさっきと同じ健全な笑顔のままでいるのだろう。そのギャップを考えるだけで僕の息子は爆発寸前だった。
そうこうしている間におかゆが完成し、恥ん子はおかゆをこちらに持ってきてくれた。
「はい。恥ん子特製卵がゆだよ。はい、アーンして」
「うん、ありがと・・・うわ!」
なんと恥ん子は自らの乳房でつくったくぼみにおかゆを流し込み、召し上がれとばかりに胸を差し出したのだ。
「どうしたの?食べないの?」
「そ、そんなことしたらやけどしちゃうよ!」
「私は人形なのよ。やけどなんかしないわ。さあ、冷めないうちに食べて」
僕は意を決しておかゆの池にダイブした。
恥ん子の卵がゆは絶品だった。卵はふわふわ。ちょうど良い塩加減、熱すぎず冷たすぎずの温度。ただうっかり舌や唇が恥ん子に触れると、小さく身をよじって悶えるので、気が気でなかった。
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何とか完食すると、恥ん子はまた足をもじもじさせたり、ギュッと太ももに力を入れたりして、誘惑と戦っていた。快楽に屈してしまいたい、でも夫の前でエッチな姿をさらすことは許されないという葛藤を表に出すまいと1人で耐えているのだ。
もう切なくて見ていられなかった。楽にしてあげたかった。
「ねえ、キスしよう」
「え?・・・むぐっ!?」返事も聞かぬうちに僕は恥ん子の唇を奪っていた。
「ん、んぶうぅ!・・・・やっ、んうううっ!・・・んーっ!・・・ふううっ!・・・ふっ、ふううっ!あ、あなた、んんっ、ん・・・ぐうっ!・・・や・・・やあああ」
互いの舌を絡めあった濃厚なキス。恥ん子の口の中はゴムのようなものでできていて乾いていたが、舌は自由に動いていた。
「もう、我慢しなくていいよ!見ていられないよ!」
「わ、分かったわ、認めるわ。私はエッチな新妻なの。エッチなことばかり考えているイケナイ新妻なの・・・。私、こんなに濃いキスしたの初めて。こ、今度はここに・・・キ、キスして」
恥ん子はエプロンを脱いで乳首を僕のほうに突き出す。
れる、ちゅ「ひあ、だめえ」
ちゅうっ「胸、やああっ」
れる、れる、ちゅっ「はっ、あっあっ・・・そこっ、やめっ」
ぢゅうっ、ぢゅっ「いやああっ!先っちょ、弄ばれてるぅっ、あうっ」
「こ、今度は、わ、私の、ア、ア・・・アワビを。私、さっきから、ずっと疼いていて、もどかしいのっ。助けて、お願いぃぃ・・・」
「そんなこといっていいの?新妻さん。こんなに乱れちゃって。コワレちゃうよ」
「いっ、いいのっ・・・。私は・・・エッチな新妻なのよっ。アワビがっ、アワビがヒクヒクして・・・。もう我慢できないのぉ。お願い、早くイかせて、あなたぁ、お願いよおおおっ」
「やれやれ君がそんなにエッチだとは知らなかったよ」
れる、ちゅう、「はひいっ、やああっ」
ぢゅう、ちゅっ、ぢゅう「あっあっあっ」
ちゅうちゅう「ひゃう、やめてぇ」
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「これはおかゆのお礼だよ」
ペロッ「ふあああっ」
ペロッ「お股がっ、お股が擦れちゃうっふわっ」
ペロッ「お股が、ぐちゃぐちゃにいぃ」
レロレロレロレロレロ・・・「やっ、そこ、お豆さんっ。アフッ、ひいぃん。蕩けちゃうぅ・・・。は、激しすぎっ、こ、こんなの、駄目なのにいっ。でも・・・うわああああああっ。気持ち良すぎるのおおおおっ」
ビクンッビクンッと大きく震え、動きを止めた恥ん子。
「大丈夫?」
「ううん、いいの。すごく気持ちよかった・・・。私もキスしたくなっちゃった。いい
よね?」
「う・・・うん」顔を赤らめる私。
「さっきはあなたに私の唇をあげたから、今度は・・・あなたのオチ○チンにもらってほしいの」
そういうと恥ん子は僕のズボンを脱がせ、パンツの中から僕の息子を取り出した。
「いくらなんでも、それは・・・」
「あら、『お父さんばっかりずるい』って息子さん怒っているわよ」
確かに私の息子はカチカチになっていて怒りをあらわにしているように見えた。
「よしよし、お母さんが今から、たっぷり遊んであげるからね」
そういうと恥ん子は柔らかい唇を僕の息子につけた。キスだけでは飽き足らず、息子をくわえて舌で転がし始めた。滑らかなゴムの舌の触感は今まで感じたことのない切ない刺激を僕に与えた。耐えかねて身をよじり逃れようをする。
「なんれひへふほ?んんっ。わたひのひほひ、ふへほっへ、んふぅ(何で逃げるの?私の気持ち、受け取って)」
恥ん子はその健全な笑顔を白濁したベトベトの液で淫らに穢してしまうまで、蕩けるようなキスをやめなかった。
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「ねえ、1つ聞いても良い?」恥ん子がティッシュで体をふきながら、尋ねた。
「どうして、あなたはそんなに悲しそうな目で私を見るの?」
「そんなことないよ」と僕。
「うそよ!私には分かるの。だから慰めようとして、エッチなふりをしたの。好きでしょ?ああいうの・・・ねえ、もう1回キスしよう、そしたら元気になるかも知れ・・・」
「もういいよ!!」
恥ん子は怯えて身を縮めた。
「・・・ごめん。実は今日は妻の三回忌なんだ。妻は僕の前ではいつも笑顔を絶やさなかった。愚痴をこぼしたり、怒るところを1度も見たことはなかった。妻のために懸命に働いた。妻の笑顔を守りたい一心で、他人よりも長い時間働き、嫌な上司と付き合って酒を飲むことも厭わなかった。でも、結果的に僕は妻の笑顔を捨ててしまったんだ。・・・妻は自宅でくも膜下出血で倒れた。必死に救急車を呼んだんだ。たった一人で・・・。そのとき僕は海外出張中だったんだけど、妻が生死の境をさまよっていたとき、何をしていたと思う?取引先の奥さんの誕生日パーティーに出席していたんだよ!ワイン片手に愛想笑いをして!・・・妻は僕の帰国を待たずに死んだ。帰ってきたときに迎えてくれたのは妻の笑顔ではなく、物言わぬ骨壷だった。僕はいっそう仕事に没頭した。犠牲になった妻の無念のためにも勝ちつづけなければならないんだと自分に言い聞かせて。でも三回忌が近づいてきて気づいたんだ。妻に何一つ夫らしいことをしてやれなかった後悔から逃げているだけだったんだって。こんなことならもっと妻と過ごす時間をつくるべきだった。」
「それであんなにやつれてたのね。ご飯も食べられないくらいに」
「うん。僕はキス魔で、出かけるときと帰ってきた時に妻とキスするのが夢だったんだ。結局永遠に叶わなくなってしまったが。そんな小さな後悔がとげのように心に刺さって抜けない」
「なら私がぬいてあげるわ」
「抜いたところで、また別のとげが刺さる。生きている限り、小さな後悔からは逃げられない」
「刺さるたびに抜いてあげるわ。そのためにDollersがあり、私がいるのだから」
「・・・・・・・もう少し楽に生きられるかな?」
「うん、きっと」
135夢幻征四郎
「・・・・・・恥ん子さん、お願いだ、僕と結婚してくれ!君は人形でアニメチックな顔してるけど、君の笑顔に妻の面影を見たんだ!」
「・・・ごめんなさい。お母様は私達人形がこのDollersを出て行くことをお許しにならないの」
「お母様?」
「創造主(クリエイター)よ。私達人形をおつくりになった方なの。全知全能の存在で、優しいお母様なの」
「クリエイターは人間なの?それとも人形?」
「そのどちらでもないわ。特別の存在なのよ」
「そうか。でも僕は君を愛してしまった。愛する人を2度も失うのは辛すぎる」
というと、恥ん子は花瓶から青い花を取り出し、私にくれた。
「この花を私だと思って大切にして。どんなときでもあなたに寄り添う存在があることを忘れないで」
恥ん子は僕のほほに優しくキスをした。
「はい、これが本日のラストキッス」
136夢幻征四郎
ここまで話し終えるとBはポケットから青い押し花が貼られたしおりを取り出した。
「これはリンドウですよね」
「はい。帰ってから調べたら面白いことが分かりましてね。リンドウの花言葉はsorrowful you『君の悲しみに寄り添う』なんです」
「ひょっとして今飲んでいるお酒はスーズですか?」
「はい。リンドウ科のゲンチアナという植物の根のリキュールです。よくご存知ですね。この酒の中に恥ん子の顔が見えるような気がするんです」
「あの、お酒、やっぱりいただいていいですか」
「ええ、どうぞ」
グラスに黄色く輝く液体が注がれる。その中にBの人生に再び輝きを取り戻させた恥ん子の顔を私は確かに見た。
「錫子は僕と恥ん子の娘という設定なんです。僕は妻と1度も性的に交われなかったから。いつか錫子を恥ん子に会わせたいんです。もちろん錫子の祖母にあたる、クリエイターにも」

私はその後、スーズを飲みすぎてグデングデンになって帰宅し、ソファーに倒れこんだ。
薄れすく意識の中、謎の人物「クリエイター」とは何者なのかと、思いを巡らせながら・・・。
137夢幻征四郎
一方ここは“Dollersの応接間。メイドさんが1人紅茶をすすりながら読書を楽しんでいる。そこへ、恥ん子がやってきた。
恥ん子です。お仕事終わりました。お母様」
「ご苦労様でした、恥ん子。次のご指名があるまで休んでいいですよ」とメイドさん、いやクリエイター。
「ねえ、お母様。どうして人間を助けようとするの」
「どうしてそんなこと聞くの?」
「だって人間ってちょっとした事でくじける愚かな生き物なんだもん」
「うふふ、確かに人間は愚かね。でもだからこそ私は愛しているの。頑張れよって、少しだけ背中を押してあげたくなるの」
完

この物語はフィクションです。登場する人物、団体、組織名、Dollersは架空のものです。
なお不快感を感じる人が出ないよう、人物名は絶対にありえないものにしてあります。
138夢幻征四郎
お目汚し失礼いたしました。夢幻征四郎です。
元々前作と今作は、しばらく前に自分で読むために書いたものです。この掲示板を知って思い切って前作を載せたところ、暖かいメッセージをいただくことができました。この場を借りてお礼申し上げると共に今作の発表に踏み切りました。

相変わらず小学生以下のネーミングセンスですみません。また、着ぐるみは人の悲しみに寄り添うために存在するという私のポリシーを前面に出しているので、自分勝手なものになってしまったことを反省しています。