状態: 完結, 文字数: 1,536, 投稿数: 2 # 檻の獣(仮) 618 :a ◆ZnBI2EKkq.:2009/03/05(木) 12:26:40 …目が覚めると着ぐるみの中だった。 着ぐるみというものを着たことがない私にとって、それは未知の経験であるはずだが これは着ぐるみの中だと確信出来た。 体全体がウレタンのような物で覆われている。 そして体を軽く動かすと、ウレタンだけでは感じ得ない抵抗感がある。これは恐らくファーであろう。 手を動かす。決して柔らかいとは言えない着ぐるみの固さで抵抗を感じる。 手を握ると指先から固い物が伸びている感覚を感じる。これは爪だろう。 足を動かす。獣特有の逆間接の構造を感じる。足を真っ直ぐ伸ばしても、あんこの様な素材が邪魔をする。 手を動かし、無いも同然な感覚体を触ってみる。すると自分より遥かに外側でボディの感覚を感じる。 この着ぐるみはかなり体格が大きい作りのようだ。 視界は無いも同然。光が差し込んでいる穴はあるが、非常に小さい上ファーが覆い被さっているので明暗しか分からない 顔部分を触ってみると、顔が正面ではなく上部に付いている。どうやら顔は四足タイプの様だ。 すると視界は顔の目ではなく首にあるはずなので、視界が異常なまでに悪いのも頷ける。 着ぐるみを着てみたいと思った自分にとって、この状況はこの上なく幸福な感覚ではあるが 自分がどうなっているのかを把握しないといけない。 視界が全く無く、音も全く聞こえないので自力で脱ぐしか無い。 頭を引っ張ってみるが…抜けない!首を探ってみるが、繋がっている!! 完全に一体化しているのか、ジッパーで繋いでいるかはこの手では分からない。 手を外そうにも…外せない!引っ張ると腕の周り数カ所に紐状の感覚を感じるので、何かで結ばれているのだろうか!? 背中を調べようと立ち上がろうとしたが、足が上手く曲がらず立ち上がれない! 619 :a ◆ZnBI2EKkq.:2009/03/05(木) 12:28:20 しかたなくうつ伏せに転がって背中に手を伸ばす…が、外せるはずがない! マジックテープ式なら無理矢理手を突っ込んで外すことも出来ただろうが、隙間らしき感覚は全く感じられない! 脱ぐ術を失った自分はこの着ぐるみという檻に閉じ込められたことになる。焦って息が荒くなる。 息が荒くなれば密閉度の高い着ぐるみでは呼吸が困難になる!困難になって焦れば焦るほどなおさら呼吸が出来なくなる! 破ってしまおうにも、手はボディを掴む事すら出来ない!足を抜こうにも、そんな空間的余裕はこの着ぐるみにはない! ただでさえ暑く、呼吸が苦しいのに、着ぐるみの固さが体の動きを妨害し、徐々に体力を奪っていく! そして頭を掴んで再び力一杯引き抜こうとすると…誰かに腕を捕まれた!そして左右に引っ張られる! 同時に足も引っ張られ、完全な大の字状態になってしまった! 誰かは居るらしい。しかも複数。しかし彼らには自分を解放する気が無いのは明白。自分の身の危険性がどんどん上がっていく! すると視界が急に無くなった!と、同時にものすごい圧迫感が!ボディが、足が、手が。 そのわずかな隙間が無くなり、ウレタンが体に押しかかる!! 頭部は暗くなったとはいえ圧迫感が無いので、首から下を何かで挟まれたようだ! 全く動くことが出来ない!暴れる事すら出来ない!俺にこんな事をしたのは一体誰なんだ!!? しかしふと気がついた。自分は着ぐるみが好きではなかったのか。着ぐるみを着ることが夢なのではなかったのか 着ぐるみを着ているだけでも幸せなはずなのに、今自分が着ているのはヘッド、ボディ、手袋、足全部一体型。 こんな経験が一生の内に出来る人は何人居る?そう考えると暴れていた自分が馬鹿に見えてしまう。 私は暴れるのを諦め、現状を受け入れた。今の自分は自分ではない一体の獣。 自分じゃない自分に胸張って、変身を楽しもうじゃないか。 そう思い、私は眠りについた。最高にラッキー。心からそう感じながら。 獣系着ぐるみのSSが増えますように。