ヒーロー

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681傑作堂 ◆v4cY0iVAGQ
『ヒーロー』

今は5月初めのGW。とあるショッピングモールのイベント広場。
ここにあるステージ上に、みんなのヒーロー「マルスマン」がやってきていた。
ステージの周りには大勢の子供達。テレビで活躍するヒーローが本当にやってきたと思っている。
ステージ上には、MCのお姉さんとマルスマンの2人だけ。どうやらヒーローと子供達でミニゲームをしたり、
子供達がマルスマンに質問をしたり、一緒に体操をする、そんなイベントみたいだ。

楽しい雰囲気をよそに会場の後ろには、眼鏡をかけリュックを背負った異質な感じの男が立っている。
年齢は30前後。子供連れではなく、男は一人だ。子供達のマルスマンを見る輝く目とは、
対照的に男の目は、マルスマンの体つきを性欲の対象として、舐めまわすように見ている。
眼鏡をかけた男の細い目は、マルスマンの胸やお尻、そして股間のあたりをじっと観察している。
682傑作堂 ◆v4cY0iVAGQ
テレビのマルスマンは男性が変身するヒーローだ。テレビでは巨大化するが、ステージのマルスマンは170cmちょっと。
日本人男性の平均身長だろう。全身はウェットスーツに包まれて、顔はマスクで覆われている。
テレビのマルスマンは厚い胸板をしているが、ステージにいるマルスマンの胸はふくらんでいる。
ふくらんではいるが、ウェットスーツの中にギュウギュウに詰まっているため、胸板に見えなくも無い。
また、ステージにいるマルスマンのお尻はバンと張っていて、テレビよりも大きい。
だが、股間の部分は男性の性器を感じさせるふくらみがある。
683傑作堂 ◆v4cY0iVAGQ
イベント開始から20分以上経過している。マルスマンは時々肩で息をしている。また、マスクの顎の部分からは
先ほどから、汗が流れ続けている。いや顎だけではなく、口からもまるでよだれの様に液体が流れている。
言うまでも無く中に入っている人間の汗だ。MCの女性はマルスマンの様子を時折心配そうな目でみている。
だが、マルスマンは元気一杯をアピールしながら子供達と一緒に体操をしている。

体操が終わった。今度は握手会だ。MCのお姉さんは子供達に「順番に並んでね~。」と言った後、
タオルを持ってきて、マルスマンのよだれの様な汗を拭きとって、小声で「大丈夫ですか?」と聞いてみた。
マルスマンは力強く頷いた。
684傑作堂 ◆v4cY0iVAGQ
握手会で出来た長蛇の列。列の後方には先ほどの眼鏡にリュックの男も並んでいる。下を向いている所を見ると
男は列に並んでいることに恥ずかしさは感じているみたいだ。小さくなっている男とは対照的にマルスマンは、
時々大きな動作でビシッとポーズをつけたりしながら、黙々と握手を続けている。
マルスマンは悪ガキたちに足やケツを叩かれても無視をしている。もちろんMCのお姉さんは注意をするが、
マルスマンは気にしていない。股間を叩かれても気にしていない。気にしていないというよりは、股間を叩かれても
平気みたいだ。だが、途中で馬鹿な子供が中腰になっているマルスマンの胸をつかむと
「マルスマン、オッパイがあるー。」と大声をあげた。これに対してマルスマンは片手で胸をおさえ、
もう片手をふりながら「違う、違う。」と必死に否定していた。
685傑作堂 ◆v4cY0iVAGQ
この場面を見て眼鏡の男は興奮し、そして確信した。「この中は女だ。」と。そうこの怪しく気持ちの悪い男は、
着ぐるみフェチだ。このヒーローの胸のふくらみやお尻の形をみて、この中は女だと考え、勃起していた。
胸やお尻は女のものだが、股間のふくらみに確信を持てなかったが、どうやら何かをいれて男にみせようとしたのだろうと
男は考えた。そして、中の女のその行為に対して、男はますます興奮していた。

男の握手の順番になった。MCの女性は男がマルスマンに何かしないか、警戒のまなざしを向けていた。
マルスマンが手を差し出してきた。疲れがピークなのか、手の差し出し方も疲れている。
男はマルスマンの手を握った。ゴム手袋の下のとても柔らかい手の感触を感じた。また手袋の中にたまっている汗も感じた。
もはや男は疑わなかった。この中に入っているのは女だ。
マルスマンは手を握られても握り返さなかった。その力もないか、あるいはこの30前後の男が気持ち悪かったのかもしれない。
男は欲望を押さえて、握手だけで何とかその場を立ち去った。
686傑作堂 ◆v4cY0iVAGQ
握手会が終わった。何とかマルスマンはその場の子供達全員とそして気味の悪い男とも握手をし終えた。
最後の力を振り絞って、マルスマンは子供達に大きく手をふると駆け足でステージ隣のテントに入っていった。
MCの女性は観覧してもらったことに感謝をするとやはり駆け足でテントに入っていった。

MCの女性がテントに入るとマルスマンはパイプ椅子に座っていた。手袋は既に取っていて、青いウェットスーツの途中からは、
しなやかな人の手になっていた。その手の爪には薄いピンクのマニキュアが塗られていた。マルスマンは椅子に腰掛け、
前かがみになりピクリとも動かない。MCの女はヒーローの後ろにまわると頭の上にあるファスナーに手をかけた。
このファスナーは頭部からお尻にまでつながっていて、これを下ろさないことには、中の人間はこのスーツを脱げない。
「すぐにファスナーを下ろします。待っててください。」MCの女性は言った。
「お願い。」彫りの深いマスクマンの仮面から、弱々しく女性の声がした。
687傑作堂 ◆v4cY0iVAGQ
MCの女性は力一杯ファスナーを下ろそうとしたが、首の所でファスナーは止まった。マルスマンが前かがみで猫背になっているので、
ファスナーが引っかかって止まっているのだ。ファスナーは首のあたりで止まっているが、後頭部は開いており、中の人間の内面が
見える。その内面は汗でびっしょりと湿っていて、中の人間の髪の色が透けていた。髪の色は茶色だ。
「立ってもらっていいですか。ファスナーがひっかかちゃってます。」MCの女性が言った。
マルスマンは無言で立ち上がり、背筋を伸ばした。マルスマンのウエットスーツは、背中からヒップにかけて曲線を描いており、
ヒップのラインも曲線を描いて突き出ている。また背筋を伸ばしたマルスマンのバストは前に突き出た。
マルスマンの体のラインは女性のそれだ。
MCの女性はまた力一杯ファスナーを下におろした。今度はヒップまで下ろすことが出来た。
さらに女性は開いたスーツを横に広げ、中にこもっていた熱を逃がした。MCは着ぐるみのスーツを横に広げると
中からの熱気を感じることが出来た。それ程、マルスマンのスーツの中は熱で充満していたのだ。
688傑作堂 ◆v4cY0iVAGQ
開いたスーツの中からはスクール水着の様な女性用の水着が見える。
マルスマンは自分でマスクの後頭部に手をかけて、前にもっていった。中から現れたのは、白の内面を被った女性だ。
マルスマンだった女性、年の頃はアラサー、30前後だろうか。顔中に汗をかいている。白の内面もびっしょりと濡れていて、
表情は疲れきっている。MCの子はマルスマンの前に回るとスーツの背中部分を持って前に持っていった。
水着を着けているが、女性の大きな胸があらわになった。女性の胸は汗だくで、乳首はたっていた。
水着の下は全裸みたいだ。マルスマンだった女性はこれで上半身までマルスマンのウェットスーツを脱ぐことができた。
全身汗だくだ。MCはさらにスーツを下まで引き下げた。
胸に続き、大きなお尻もあらわになった。マルスマンだった女性は水着を着ているが、その上から下着のパンツもはいている。
女性はパンツの中に手をやると中からタオルを取り出した。タオルは女性の汗でしめっていた。
マルスマンはこのタオルで股間のふくらみをだしていた。
689傑作堂 ◆v4cY0iVAGQ
スーツが膝までくると女性は再び椅子に腰掛けた。ブーツに手をやり自分でマルスマンのブーツを脱いだ。ブーツの中は女性の
汗がたまっていた。MCの女が膝まできていたウェットスーツをひっぱり、脱がせた。これで女性は完全にマルスマンの
スーツを脱ぐことが出来た。マルスマンだった女性は最後に着けていた内面を自分で取ると、MCの女に渡されたバスタオルに
顔をうずめた。MCの女は別のタオルで女性の背中の汗を拭きはじめた。女性は顔だけでなく、全身に汗をかいていた。
マルスマンだった女はしばらくすると顔を上げ、自分で手や脇の汗をふきはじめた。
さらに水着の下にタオルを入れ大きな乳房の下を自分でふいた。
690傑作堂 ◆v4cY0iVAGQ
全身の汗を一通り拭うと水着の上から長袖のシャツを着た。そしてその上からジャージを着て、
髪を止めていたゴムをはずした。女性の髪は肩ぐらいまであった。その様子を見ながら、MCの女が言った。
「落ち着きました?」
「だいぶね。」髪を拭きながら、女性は答えた。
「よかった。そうそう握手の時、気持ち悪い男いましたよね。気づきました?どこの会場でもああいうのいますよね。」
「本当?男の人は何人かいたのわかったけど…。視界が狭いから顔まではわからなかった。」
「私、もしあの男が智子さんに抱きついたりしたら、『抱きつかないでください!』って大声で言ってやるつもりでしたよ。」
「ありがとう。女が入ってるってわかってて変なことしてく奴いるからね。完全に痴漢なのに。」
「本当にそう。ああいうの絶対童貞ですよ。」
マルスマンに入っていた「智子」という女は笑った。

テントに戻ってから30分程だった。智子はMCの女性に言った。
「麻奈ちゃん。そろそろお昼行こうか?」
「智子さんが〇Kならいいですよ。」
智子と麻奈は昼食を取りにテントを出た。
691傑作堂 ◆v4cY0iVAGQ
テントから数十m離れた所で眼鏡の男は2人の女が出てくるのを確認した。男は2人に近づいて行った。
やっぱり女だ。オッパイでけえし。年は結構いってるかなあ。
男は2人に近づきながら、ジャージを着ている智子を舐めるように観察しながら思った。
男が近づいてくることに麻奈が気づいた。智子に言った。
「さっき言ってた男です。」言って、麻奈は男を睨んだ。
男は麻奈が睨んでいることに気が付いて、視線をはずした。視線をはずしながら歩いたが、すれ違う前にもう一度男は
ジャージ姿の智子を見た。その時、男と智子は目が合った。
智子は目を大きくしていた。男も智子の顔をはっきりと見て、すれ違った後、目を大きくした。
「山野智子?」男は自分しか聞こえないぐらいの声で言った。まさか。いやでも間違いない。いやまさか。男は混乱した。
智子は男とすれ違った後、思わず振り返った。男は後ろを向いたまま歩いていった。振り返らない。
「岡島。」智子は小さく言った。麻奈はそれが聞こえた。「えっ!知ってる人なんですか?」麻奈は智子に聞いた。
「えっ、別人だと思う。ちょっと知ってる人に似てただけ。」智子は答えた。
692傑作堂 ◆v4cY0iVAGQ
男は会場近くでハンバーガーを食べながら、さっきの光景を頭の中で何度も反芻した。そして考えていた。
あれは山野だ。恐らく間違いない。向こうも俺に気がついたから驚いてたんだ。でもまさかあの山野が着ぐるみのヒーローに
入っていたなんて。あいつ俺と同じ32だぞ。32で着ぐるみの中身かよ。結婚はしてねえのかなあ。
男はそんなことを考えながらイベントの時より興奮していた。
693傑作堂 ◆v4cY0iVAGQ
智子と麻奈はパスタを食べていた。
「さっき言ってた知ってる人って誰なんですか。まさか元カレですか~?」
「違う違う。単なる高校のクラスメート。ただ凄く頭が良くて、医学部目指してたの。おそらく、
今頃医者にでもなってるんじゃないかなあ。着ぐるみの追っかけ何かやってる訳ないよ。」
智子はそう言った。
「そうですか。なら別人ですね。さっきの男無職みたいだったし。」麻奈が返した。
智子もそう思った。でもあれは岡島だと思う。岡島健太。私が高校の時好きだった男。
勉強ができて、正義感が強くて、誠実さを感じさせる人だった。
でもさっきの彼は私が知ってる岡島とはまるで別人だった。一体何があったんだろう。
696傑作堂 ◆v4cY0iVAGQ
食事を終えると2人は店を出た。
「じゃあ次の回が、3時からで30分前にテントに入るとして、あと30分ぐらいか。私ちょっとこの中歩いてきますね。」
「わかったわ。じゃあ30分前には戻ってきてね。あれ一人じゃ着れないんだから。」
「はーい。智子さんも時間までくつろいでくださいね。」そう言って麻奈はその場を離れた。
テントまで戻る途中、智子は思った。
麻奈ちゃん、21歳って言ってたっけ。あの子から見たら私なんて完全にオバさんなんだろうなあ。30過ぎて結婚もしてなくて、
GW中に着ぐるみに入って大汗かいてる。態度には出さなくてもイタい女だと思ってるんだろうなあ。
まあどう思われてもしょうがないけどね。
テントに着いた時、智子は少し暗い気持ちになっていた。そこに5歳ぐらいの男の子が寄ってきて、言った。
「マルスマン、この中にいるの?」
智子はしゃがんで男の子に目線を合わせて言った。
「マルスマンはねえ、この中にはいないよ。今はパトロールにでかけてるんだよ。」
「また来る?」
「うんまた来るよ。3時になったらパトロールから戻ってくるよ。」
男の子は満面の笑みを浮かべて言った。
「その時、握手してもらんだ。」
智子は微笑んで、男の子の手を両手で握った。「そっかあ。楽しみだね。」言われてから男の子は近くにいた母親の元に歩いていった。
智子は母性のようなものを感じながら、周りを確認してテントの中に入った。
697傑作堂 ◆v4cY0iVAGQ
中に入ると智子はパイプ椅子に腰掛けた。
5年前、和明と結婚していたら、私にも今頃あれくらいの子供がいたかなあ。
智子は自分の胸をさわって思った。
オッパイもこんなに大きくなったけど、垂れてきたし、女としての賞味期限もそろそろかなあ。
智子の気持ちは沈み始めた。その時、椅子にかけてあったマルスマンのスーツが目に止まった。
着ぐるみフェチって、この中に女が入ってることで興奮するんだよね。
裸の女より着ぐるみを着た女がいいんだよね。
でも私みたいなオバサンが入っていても興奮するのかしら。
岡島もマルスマンに入ってる私に興奮したのかなあ。

でも、岡島、変わったなあ。
698傑作堂 ◆v4cY0iVAGQ
眼鏡の男こと、岡島健太は食事を終えて、タバコを吸ってから落ち着いて考えていた。
最初の回でマルスマンの中身の性別を確認する。中が女だったら次の握手回の時に抱きついて帰る。
これが最初の計画だった。だがマルスマンの中身は山野智子だ。俺が高校の時ずっと好きだった女だ。
向こうも俺が誰だか気づいていた。山野は俺をどう思っただろうか。高校時代は、俺の黄金時代だ。
でも今の俺にあの頃の面影なんか無い。医学部に入るために4浪したけど、ダメだった。
その後私大を出たが、就職の時は氷河期。そして卒業後、転職を繰り返して今は無職だ。
高校の頃はモテたかった。カッコばかりつけていた。でも今はそんなのどうだっていい。
女が入った着ぐるみに抱き着けば、痴漢だぐらいわかってる。
でも俺を相手にする女なんていねえんだよ。
岡島は舌打ちをした。
699傑作堂 ◆v4cY0iVAGQ
小さな男の子と母親が岡島の横を通った。
「マルスマンねえ、また3時に来るって。その時握手するんだ。」
「じゃ一緒に写真も撮ろうね。よっちゃんマルスマン大好きだもんね。」
男の子と母親の会話が聞こえた。
だけど、山野は何で着ぐるみ何てやってるんだろう。あのルックス。それにあの体。
高校の時は結構モテてたし、結婚相手なんていくらでもいるだろう。それとも結婚はしていて、
ダンナも子供もいるけど趣味で着ぐるみに入ってんのか?
あるいは結婚なんて考えてなくて、バリバリに働いててたまの休みに着ぐるみに入ってんのか?
両方ともイマイチ現実感ねえなあ。岡島は思った。
700傑作堂 ◆v4cY0iVAGQ
2時25分。3時のイベント開始まであと35分。麻奈はまだ戻らない。
智子は時間を確認すると立ち上がった。麻奈ちゃんまだだけどそろそろ着替えるか。
智子はジャージを脱ぎ、それから長袖のシャツも脱いだ。
智子が身に付けているのは上下が一体になった水着だけだ。タンクトップにスパッツが主流だけど、
マルスマンはとっても汗かくし、このカッコは麻奈ちゃんしか見ないわけだし、まあいいでしょう。
智子はそう思った。智子は大らかな性格だった。
水着姿になったら次にその上からパンツをはいた。
そしてそのパンツの中にタオルを入れ、ふくらみをつくった。
男のヒーローだから、おチンチンあった方がいいんだろうけど、これどうなんだろう。
これで「中は男の人」って思う人どれぐらいいるんだろう。
こんなことしてて私、女としてどうなんだろう…。
いけない、いけない、今は仕事に集中しよう。マルスマンに成りきろう。
さっきの坊やだって、マルスマンに会うのを楽しみにしてた。
私はテレビと同じヒーローにならなきゃいけないんだ。マルスマンに入ってる間、私は男の人なんだ。
男の人なんだからおチンチンもなきゃダメよね。智子はふっきるように強く思った。
701傑作堂 ◆v4cY0iVAGQ
2時35分を過ぎて、麻奈が戻ってきた。
「ごめんなさい。少し迷っちゃって。」麻奈が言った。
「いいわ。じゃあマルスマンを着せて。」髪をまとめ、内面を既に被っていた智子はそう言うと、
麻奈にマルスマンの着ぐるみスーツを手渡した。
麻奈は受け取ると背中のファスナーを横に広げた。智子は長い足を着ぐるみのスーツの中に通した。
「冷たい。」智子は口に出した。
「さっきの汗がまだ残ってるんですね。どうします?もう一度拭きますか?」麻奈がきいた。
「このままでいいわ。時間も無いし。着ちゃえばすぐサウナになるんだから。」
智子は両足を通すとマルスマンのスーツを上に引っ張った。
麻奈は智子の後ろに周ると智子の大きなお尻をグッと掴んで、マルスマンのスーツの中に押し入れた。
「どう今回はスムースに入りそう?」智子は笑いながらきいた。自嘲の笑いだ。
「ええ大丈夫ですよ。」麻奈は智子のお尻をマルスマンの中に押し込むとスーツを上に引っ張り上げた。
702傑作堂 ◆v4cY0iVAGQ
続いて智子はマルスマンの腕の中に自分の腕を入れ始めた。
麻奈は智子の両方の胸を後ろから両手で掴んでつぶした。
智子がマルスマンの両腕に自分の腕を通し終えると、麻奈は智子の大きな胸を平たくつぶして、
自分の腕をマルスマンから抜いた。
今、智子は首から下までがマルスマンになっている。マルスマンのごつくて大きいマスクは、
智子の胸の所で、下を向いている。
マルスマンの股間はふくらんでいる。中に入っている智子のお尻が大きいためにマルスマンのお尻も大きい。
マルスマンの胸は智子の胸が平たくつぶれているために胸板のようにみえる。
マルスマンの背中はまだファスナーが開いており、智子の水着がチラチラ見える。智子は言った。
「始まる10分前になったら、マスクを被るわ。」
703傑作堂 ◆v4cY0iVAGQ
岡島はイベントステージの後ろに立っていた。そして考えていた。
山野がどういう理由で着ぐるみに入ってるのかなんてわからない。聞く訳にも行かない。
向こうも教えたくないだろう。だが32ににもなって着ぐるみの仕事なんて、
おそらくあんまり人生うまくいってないんだろう。俺と同じだ。
だけど、だけど、あいつ今でもキレイだったなあ。高校の時、30代の女なんて完全にババアだと思ってたけど、
今じゃあ、30女はストライクゾーンだしな。テクニックも豊富だろうし。
そして今、あの巨乳が、あの巨尻が、着ぐるみの中でギュウギュウに押し込まれている。
男にみせようとマルスマンの中で大汗かいてる。
それにチンコまでつくって男にみせようとしてる。たまんねえんだけど。
………………………。
でも、俺は…。
704傑作堂 ◆v4cY0iVAGQ
智子は10分前を確認した。「それじゃあ、変身しますか」そう言って、
智子はマルスマンの後頭部を広げた。智子はマルスマンの後頭部から自分の頭を入れると
マルスマンの目の小さなのぞき穴から外を見た。麻奈の体がのぞき穴から見えると
「お願い」と言った。麻奈は「はい」と言うとマルスマンのお尻にきているファスナーを力強く
上に引き上げた。お尻の辺りで少しつかえたが、肩までもってくることが出来た。
ファスナーが肩までくる時、マルスマンの胸は少しつぶれた。
麻奈は肩まできていたファスナーをマルスマンの頭の上にまでもっていった。
ファスナーを完全に上げると麻奈はマルスマンの背中にある背びれのようなものでファスナーを隠した。
「オーケーです。」麻奈が言った。
「ありがとう。」マルスマンの中から智子のくぐもった声がした。
智子は小さなのぞき穴からパイプ椅子をみつけると座った。
705傑作堂 ◆v4cY0iVAGQ
胸、やっぱり苦しいな。でもヒーローにオッパイがあったらダメだよね。
そういえば着ぐるみフェチって、こういうシチュエーションに興奮するんだよね。
やっぱ変態だわ。でも岡島もこんな私に興奮してるのかなあ。それにまた今回もきてるのかなあ。
握手の時、抱きついてくるのかなあ。でも岡島にだったらオッパイぐらい揉まれても良かった。
抱かれても良かった。
いいえ抱いて欲しかった。告白して欲しかった。高校の時なら受け入れた…。
だけど今の岡島は嫌だ。私の知ってる岡島は着ぐるみに抱きついたり何てしない。
中が女だと知ってて抱きついたり何てしない。中の女がしゃべれないとわかってて、
着ぐるみの上からオッパイを触ってきたり何て絶対しない。
私の知ってる岡島はそんな卑怯な男じゃない。
でももし岡島がそんなことしてきたら、私どうしたら…。
「イベントステージ始まります。」マイクを持った麻奈が勢い良くテントから飛び出した。
たとえ岡島が何してこようと私は今、マルスマンなんだ。子供達のヒーロー、マルスマンなんだ。
強くてたくましいヒーローなんだ。悪い奴をやっつけるヒーローなんだ。
変なことされてもヒーローでいよう。
マルスマンはそう決めて立ち上がった。
711傑作堂 ◆v4cY0iVAGQ
ステージにMCの麻奈があらわれた。
「みんなー、こんにちはー」「こんにちはー」「あれー?声がちいさいなあ、こんにちはー」
MCの麻奈がお約束を始めたのを岡島は見ていた。
正確には目では見えていたが、心は高校の頃に戻っていた。優しくて、親しみやすくて、
かわいかった智子のことを思い出していた。自分のことしか考えない俺だったのに彼女は
俺に微笑んでくれた。頭の良さを鼻にかけ、クラスメートを馬鹿にした時、
彼女は本気で俺を怒ってくれた。彼女といる時、俺は成長できた。
カッコイイって何だろう、男らしいって何だろう、正義って、人間って、生きるって何だ…。
彼女と接する中で、俺はいろいろ考えた。そして、外見も中身もカッコをつけた。
彼女に認めて欲しかったんだ。今思えば、笑ってしまう。
青臭いし、バカバカしい。

だけど何故だ。あの頃の自分がまぶしくてしょうがない。
712傑作堂 ◆v4cY0iVAGQ
「マルスマーン!」子供達の声援と共にステージにマルスマンが勢い良く飛び出してきた。
マルスマンは子供達に手を振って挨拶をしている。MCの言うことに大きく頷いたり、
ジェスチャーをとって反応している。一つ一つの動作は大きく、ビシッとポーズを決めている。
さっきの回より元気がいいな。岡島はマルスマンを見て思った。だが、女の体つきは隠せない。
胸のラインも腰つきも緩い曲線を描いている。岡島はそう考えながら、高校時代の智子の
ボディラインを思い出していた。あの頃のあいつは、決して巨乳じゃなかった。
でも、さっきすれ違った時のあのオッパイのデカさ。それに今そのオッパイのデカさを利用して、
着ぐるみの中で男の胸板にみせている。横を向けば、ケツだって突き出てるのがわかる。
ケツもでかくなったんだな。俺好みの体になりやがって。
岡島は一人勝手にうれしく思った。
713傑作堂 ◆v4cY0iVAGQ
マルスマンの肩は時々大きく上下に動いた。たまに智子はマスクの口に自分の口をあて、
呼吸をしている。マルスマンの中では、智子はすでに自分の汗で全身びしょ濡れだ。
智子が着ぐるみの仕事を始めてずいぶんとたっていた。その間、着ぐるみの中で死ぬほど
暑い思いを何度も経験した。着ぐるみのまま倒れたことだってある。でもそうした経験を何度も
繰り返して、暑さにはだいぶ慣れた。正確には暑いのを我慢して、かつ倒れない根性が身に付いた。
だけど汗の量はコントロールなんてできない。一定の暑さが続けば、気持ちに関係なく
どんどん汗はかく。この汗の量、昔の私だったら倒れてたな。マルスマンの中で智子は思った。
そんなことをふと考えていた時、マルスマンは自分のお尻を触られてることに気が付いた。
マルスマンが下を見ると、さきほどミニゲームでステージに上がった男の子がマルスマンの
腰に抱きついている。「大好き。」男の子が言った。マルスマンはそれが聞こえるとしゃがんで、
男の子を自分の胸でやさしく抱きしめた。
その動作は我が子を抱きしめる母親のようだった。
714傑作堂 ◆v4cY0iVAGQ
この光景をみながら、岡島は勃起していた。いくらチンポつくって、胸をつぶしたって、
やっぱり女だ。動作を男らしくしたって、女らしさはふとした瞬間に出るんだな。そう思った。
そして、智子が子供好きだったことを思い出した。着ぐるみをやってる一番の理由はわからん。
でも子供が好きっていうのは、絶対あるな。岡島の眼は、少し柔らかくなった。
ステージでMCが「それじゃあ、体操を始めよう!」と元気良く言った。マルスマンは大きく
頷くとステージの真ん中に移動した。マルスマンの口から、中に入っているの智子の汗が流れた。
顎からも汗がポタポタとしたたり落ちた。マルスマンはそんなことにおかまいなく元気一杯に体操を始めた。
音楽が流れる中、マルスマンがジャンプして着地をすると、マルスマンのお尻の肉が揺れた。
胸も少し揺れるのが確認できた。
715傑作堂 ◆v4cY0iVAGQ
「じゃあ、これからみんな、マルスマンと握手をしよう。
ステージ右にいるお兄さんのところに並んでね。」MCはそう言った後にマルスマンをみた。
マルスマンの口からはヨダレのように中の女の汗が大量に流れだしていた。首筋も同じ状態だった。
これをみるとMCは言った。「じゃあ、マルスマンも準備のために一回テントに戻ろう。」
その後、マイクを顔から離して、マルスマンの耳元で言った。「水分を取ってきてください。
それから、口の周りと首筋の汗も拭いてください。」マルスマンは頷くとテントの中に戻った。
「みんなちゃんと並んでねえ。ちゃんと並んだらマルスマンは全員と握手するからね。」
徐々に長い列が混乱も無く出来ていった。そして、列の後方には岡島が並んでいた。
716傑作堂 ◆v4cY0iVAGQ
握手会が始まった。マルスマンの口元はきれいになっていた。マルスマンは次々に子供達と握手をしていく。
写真を要求されれば、ポーズをつくった。子供だけでなく、その母親からも時たま握手を求められ、手を握った。
水分補給できたから、さっきよりはいくらかマシね。マルスマンの中で、全身汗だくの智子は思った。
たまにバカな子供が股間を叩いてくるのがわかったが、痛くは無かった。股間に入れたタオルのおかげだ。
こういう形で役に立つけどね。智子は思った。マスクの小さな視界から子供達の場所をおおまかに確認しながら、
智子は握手を続けた。
717傑作堂 ◆v4cY0iVAGQ
マルスマンの中の智子は、小さな視界の中にさっきの男の子を確認できた。イベント前にテントにきた子だ。
マルスマンはその子の手を両手で握り締めた。それから、しゃがんで男の子を自分の胸に引き寄せて、強く抱いた。
男の子の口はポカンと開いた。側にいた母親が「一枚いいですか?」とマルスマンに言った。
マルスマンは頷くとポーズをとった。母親は男の子とマルスマンを携帯で一枚写すと「ありがとうございます。」
と言って、男の子を連れて行った。
手を引かれながら男の子は言った。「マルスマンねえ、ママと同じだったよ。オッパイがあった。」
718傑作堂 ◆v4cY0iVAGQ
握手に並んでいた人もだいぶ減った。もう少しで握手会も終わりそうだ。MCの麻奈は思った。
もう一時間も智子はマルスマンの中に入っている。早く解放してあげたかった。麻奈は肩で息をしているマルスマンを見て思った。
その時、麻奈はさっきの男を確認した。さっき握手にきた気持ち悪い奴だ。智子さんが着替えて、テントから
出てくるのを待っていた変態男だ。何しにきたの?智子さんに変なことしたら、大声出してやる!麻奈はそう思った。
そして男を睨んだ。
マルスマンは子供達が小さいため、下を向いて握手をしていた。そのマルスマンの視界から子供の姿が消えた。
マルスマンは顔を上げた。目の前には岡島が立っていた。
719傑作堂 ◆v4cY0iVAGQ
マルスマンの中で智子は「あっ!」と声を上げそうになった。視界は小さいが、
目の前にいる男が岡島であることはわかった。智子は一瞬、迷ったが握手の手を差し出した。
そして思った。
もし、抱きついてきたら、突き飛ばしてやろう。オッパイなんて触ってきたら、キンタマ蹴飛ばしてやろう。
後のことなんて知らない。痴漢する方が悪いんだ。悪い奴をやっつけるのがヒーローなんだ。
マルスマンの中で顔中に体中に汗をかきながら、智子は岡島を睨んだ。
岡島はマルスマンの口や顎から流れ出る汗を確認した。マルスマンが肩で息をしていることを確認した。
岡島は差し出されたマルスマンの手を握ると言った。
「今日会えて良かった。昔の自分を思い出せた。もう一度頑張ってみようと思う。ありがとう。」
一瞬の間を置いてから、マルスマンは岡島の手を強く握り返した。そして、左手でガッツポーズをつくった。

智子が中に入ったマルスマンは、岡島にとってのヒーローだった。
岡島の気持ちを前向きに変えたヒーローだった。

岡島は笑顔になっていた。そして、他には何もせずその場を立ち去った。
マルスマンの中で智子は満面の笑みになっていた。

(了)