曖昧な記憶(仮)

状態
完結
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14
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157妄想暴走 ◆sdS5LmkBLs
暑さと息苦しさで気がついた。しかし、目の前には小さな穴がありぼんやりと明るいだけでその先はよく見えない。いったい私はどうなったのかと考えながら、手を動かそうとするが、ほとんど動かすことができない。少し冷静になり思い返すと少しずつ思い出してきた。今朝はバイトでインストラクターをしているスイミングスクールへ来ていた。今日は朝一のクラスを教えたあと、スイミングスクールも入っている大型ショッピングモールで買い物でもして帰ろうと思っていたのだが…。春休みでウルトラマンのイベントがあり、人手が足りないので人を貸して欲しいという依頼があった。私は特に予定もなく時給も出るというのに釣られてイベント会場へ。
158妄想暴走 ◆sdS5LmkBLs
30分ほど整理券を配布してもらうだけと聞いていたので、髪を後ろで束ねて水着の上からジャージを着て向かった。行ってみると親子連れの列が結構な長さ続いていた。どうやらウルトラマンと握手と写真撮影ができるようだ。イベント事務局へ行くとなにやらバタバタしている。声もかけづらい状態だったので、少し立って見ていると、ひとりのスタッフが声をかけてきた。応援の方?頷くと続けて困ったことがあって協力してもらえないかなぁと。あまりに困った表情で言われたので思わず頷いてしまった。
159妄想暴走 ◆sdS5LmkBLs
そのスタッフの方は後で詳しい説明するからまず着替えてもらえると、私を更衣室へと案内した。着替える?そう、私にウルトラマンになれということらしい。更衣室に入ると女の子が腰までウルトラマンの着ぐるみを着ているところだった。スタッフからは彼女はウルトラの母で、貴女はウルトラマンで、お願いします。着方は彼女に教えてもらってくださいといってスタッフは更衣室から出ていった。ウルトラマンの着ぐるみはウエットスーツにウルトラマンのお面まで一体になったものだった。ジャージを脱いで水着になり、その女の子に着方を教わりながら着ていく。
160妄想暴走 ◆sdS5LmkBLs
そのウルトラマンの着ぐるみは外側も内側も同じような素材でできていて足から着ていくのだが、滑りにくくなかなか着ることができなかった。手伝ってもらいなんとか腰まで着たとき、顔には玉のような汗をかいていた。そして手伝ってくれた彼女の顔からも汗が流れて、二人とも笑顔になっていた。しかし、時間がないのでそれほどのんびりもしていられない。次は彼女の腕を通すのを手伝う。こちらも滑りにくく着るのに一苦労。次は私の腕を通してもらい、いよいよ頭の部分を被りウルトラマンになる。彼女は面の中の覗き穴の調整と口を尖らせて口部分の穴から吸うようにして呼吸するようにと、教えてくれた。
161妄想暴走 ◆sdS5LmkBLs
先に彼女がウルトラの母の頭を被り、両手で自分で頭を振るように調整している。ポジションが決まったのか、背中のファスナーを探しているような仕草をし始めたのを見て、私は彼女の肩を軽く叩きファスナーを閉めた。するとそこにはテレビでしか見たことのなかったウルトラの母が目の前に現れた。私はあまりの感動に私より小さなウルトラの母に思わず抱きつきにいってしまった。しかし、ウルトラマンの頭が邪魔で抱きつくことはできなかった。ウルトラの母は無言で私に頭を被るように促す。そう、私も女の子だけれど、ウルトラマンになるのだ。頭を被ると、ゴムの臭いがキツイ、その中で視界と呼吸を確保したが、かなり息苦しく視界もほとんどない。
171妄想暴走 ◆sdS5LmkBLs
しかし、なんとかいけそうだと思ったので背中のファスナーを探す素振りをすると、ウルトラの母がゆっくりとファスナーを閉めてくれるのがわかったが、頭の後ろ辺りに差し掛かったとき、顔が面に押し付けられ息ができなくなった。半分パニックで手をバタつかせている私に構わず、ファスナーは閉まっていく。完全に閉まると息苦しさは残るが呼吸はできた。鏡で自分を見てみる。カッコいい思わずポーズを取る、なにか違和感がある。それは内股になっていて女性ぽさが出ていた。歩き方や立ち方も確認する。ウルトラの母と並んで立ってみた。彼女はより女性らしく見えるようにしてくれたので、私が男らしく、強いウルトラマンに見えた。
172妄想暴走 ◆sdS5LmkBLs
男らしくたっていたのだが、ふいにウルトラの母が私の内腿を撫で、そのまま腰から脇のした辺りを触ってきた。優しくそして柔らかく触られて、身体の力が抜けてその場に座り込んでしまった。ウルトラの母からフッフと少し笑ったような声がしたような気がした。間もなく更衣室をノックしてスタッフが入ってきた。簡単に段取りを聞いてから、会場へ向かう。そういえば、ここへ来たときはすでにかなりの数の親子連れがいたことを思い出すと気が遠くなったがウルトラマンが弱音を吐いてはいけないと自分に言い聞かせイベントをこなした。ウルトラマンに蹴りを入れてくる子もいれば泣き出す子やたらと身体を触ってくる子などいたがどの子もかわいかった。
173妄想暴走 ◆sdS5LmkBLs
なんとかイベントも無事に終わり、更衣室へ引き上げたが、自分のスイミングスクールの子供たちにもウルトラマンに会わせて喜ばせたいと思い、スタッフの人にお願いしてみた。少し考えていたが、始めに無理なお願いをしたのはこちらだからということでOKしてくれた。ウルトラマンのままだとあまりに目立つと思い、着てきたジャージをウルトラマンの上から着てスイミングスクールへ向かう。入口で同僚の先生たちに説明して子供たちを集めてもらった。ウルトラマンを見る子供たちの目は普段見ているのと違い、輝いているように見えた。ここで終わればよかったのだが、同僚の一人が調子にのり、私をプールへ突き落としたのだ。
174妄想暴走 ◆sdS5LmkBLs
只でさえ呼吸のしにくウルトラマンで水に入ったので、全く呼吸ができない。明らかに溺れている私の異常に気づいた他の同僚二人が飛び込んで救出してくれた。それでもウルトラマンの正体を子供たちに明かす訳にはいかないで咳き込みながらも必死に手を振りコーチ室へと戻った。コーチ室の窓からは何人か覗いてこちらを見ている。マスク外さなくて大丈夫と声をかけてくれた。私は小さな声で大丈夫と答えて、ここじゃ着替えられないので戻るわと返事をしてイベントの更衣室へ戻ることにした。
175妄想暴走 ◆sdS5LmkBLs
戻る途中、他の人の目につかないように荷捌場を通ったのだが、そこでタバコを吸っている高校生に出くわしてしまった。二人の高校生は私の方へ不敵な笑みを浮かべながら近づいてくる。私は怖くなり後退りした。不意に後ろから羽交い締めにされた。もう一人仲間がいたのだ、前から迫ってきた二人は業務用ラップでウルトラマンの私をグルグル巻きにしていく。顔にまで巻き付けられて呼吸もままならない。必死に抵抗するが、ラップが虚しく軋むだけだった。高校生たちはなおも私にラップを巻き付けていく。私を羽交い締めにしていた高校生はラップの上からさらにガムテープを巻き付けているような音だけが聴こえる。
176妄想暴走 ◆sdS5LmkBLs
ガムテープを巻き付けられ、身動きが取れなくなった私はおそらく茶色イモムシのようになっているのだろうと想像ができた。どうにもならないのは分かっているが身体を動かしてみるが、ガムテープやラップ擦れる音と高校生の笑い声しか聴こえない。呼吸もできず意識が遠退いていく。
再び気がつく、同僚インストラクター沙織が私を暑さと息苦しさから解放してくれた。早希、大丈夫?さっきまではしゃいでいて、私が少し離れて戻ってきたら、倒れていたからびっくりしたよ。ウルトラマンを着ているはずの私の腰辺りまで脱がされているのは普通のウエットスーツだった。
177妄想暴走 ◆sdS5LmkBLs
記憶が曖昧なので沙織に何をしていたのか聞いてみた。すると、温かくなってきたので二人でウエットスーツを整理していたが、そのうち色々なサイズがあるのでふざけて重ね着してみようということになった。私は身体が小さいので、より重ね着できるのではということで沙織に手伝ってもらいながら、6着ものウエットスーツを着ると丸々とした身体になり、大きなサイズを着ているので手も足も頭も完全に隠れてしまった。沙織が息できると心配してくれたが暑く少し息苦しいが大丈夫と答えた。沙織は面白いから写真撮ろうよといって、スマホを取りにいった。待っている間、スイミングスクール内に貼ってあったウルトラマンのイベントを思い出した。
178妄想暴走 ◆sdS5LmkBLs
ウルトラマンの着ぐるみもこんな感じかなぁと思った。暑くて息苦しそう。それにあの着ぐるみも今着ているウエットスーツでできているから、ゴムの臭いが凄いのかなぁと思いながら、ウルトラマンになったつもりで動いてみた。そのとき足元に散乱していたウエットスーツにつまずき勢いよく転倒してしまった。転倒したせいで、ほとんど息ができなくなり苦しくて暴れたのが悪かった、どんどん意識が遠退いていく。そのとき沙織が戻ってきて、すぐに異変に気づき私を助けてくれた。ウルトラマンも苦しいのかなぁと思いかえしたとき、さっきリアルに体験したような夢を思い出してきた。
179妄想暴走 ◆sdS5LmkBLs
今では夢だったと思うがウルトラマンになった私はすごく格好よく見えた、機会があればウルトラマンになってみたいと思った。帰りにウルトラマンのイベント会場の前を通ったとき、ウルトラマンとウルトラの母が見えた、そして私を見つけた二人が私に手を振ってくれた。あれは現実だったのか夢だったのかは未だにわからないが、私は笑顔で家路についた。

*****おしまい*****

慣れない携帯からの投稿で読みにくくなってしまい申し訳ありません